始まりのキス

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❇︎❇︎❇︎❇︎ 翔太とケーキを食べてから1週間が過ぎた頃。金曜日の夜、私のメッセージアプリに明日のデートの詳細が潤さんから届いていた。 土曜日の夜ということは、確実にお泊まりの予感。潤さんと一夜を過ごすのは初めて。付き合って1ヶ月近く経つが、潤さんはガツガツした感じもなく、きちんと段階を踏んでくれる人なのだ。 仕事帰りに明日のデート用の服まで購入して、今日はスキンケアを念入りにしなきゃなんて思いながら帰宅して、また玄関先に翔太の靴を見つける。 きっと母が呼び寄せたのだ。最近は、私から翔太を呼び出すことは減っていた。翔太がふらっと連絡を寄越して来るか、母が「一緒にご飯を食べよう。」と誘うかのどちらかだ。 私が大学生になってからは、母の方が帰宅が早いこともあって、今日も玄関には翔太の靴の隣に母の仕事用のスニーカーが並んでいる。 「ただいま。」 と、言いながらリビングに入ってあれ?と思う。 母の姿しかそこになかったから。 「あぁ、雫、おかえり。」 「翔太は?」 「翔ちゃんね、風邪ひいたみたいで、熱が出ちゃって、雫のベッドで寝かせてる。」 「熱!?」 もうカレンダーを捲ることのない12月だ。この頃、朝晩と冷え込むし、風邪をひいて熱が出てもおかしくはない。 おかしくはないけど…… 「私のベッドで寝てるってなんで!?」 「だってうちの家、お客様用の部屋なんてないでしょ。翔ちゃんと雫の仲ならいいかなぁって。」 良くないでしょ。もう私たち子どもじゃないんだから。母は天然なのだ。未だに私たちが仲良しなら何でもオーケーと思っている。 「最初はね、晩ご飯食べにきたんだけど、全然食欲がないから変だなぁって思って検温したら、熱があったのよ。翔ちゃん、自分の家に帰るって言ったんだけど、市販薬を飲んで、ちょっと休んでからにしたらって言ったの。お父さんもお母さんも今日は遅いみたいでね。」 翔太の両親は今は愛人はお互いにいないけど、夫婦としてはもう関係を修復する気はないらしい。ただ、翔太が成人するまでは、家族としてはやっていきたいと思っているそうだ。 翔太と父、母との仲は良好ではあるようだが、翔太自身が「俺に気をつかわずに好きに暮らして。」と話していることもあり、様々な理由で相変わらず帰宅は遅いみたいだ。 「あ、雫、これ翔ちゃんのところに持っていってあげて。着替えるでしょ。」 母にお盆に乗ったペットボトルに入ったお茶とグラスを渡されて、突っ込みたかった。 翔太が寝てたら部屋で着替えられないじゃんと。
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