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「翔太、入るよ。」
何で自分の部屋なのに私が遠慮してるんだかと思いながら部屋のドアを開けた。
翔太は頭の上まで布団をかぶっている。
「お母さんがお茶を用意してくれた。」
自室の中央にあるテーブルにお盆をおいてから、翔太の寝るベッドの傍に座り、ゆっくりと掛け布団を捲ると、もう息をするのも苦しそうな翔太の姿があった。翔太は起きていて、肩を震わせている。
「大丈夫?」
「……寒い……」
「まだ熱が上がるのかも。」
額に手を当ててみるとかなり熱い。
「お母さんに言ってもう一枚毛布を出してもらうね。あ、電気アンカーの方がいいかな?」
既に毛布、掛布団、毛布と三枚被っているので、これ以上重ねるのは、反対に体に負担かもしれない。
翔太は静かに首を振って、自分の額に当たっていた私の手をとった。
「温めて。」
「えっ?」
温めて?温めてって……?
「雫の体温がいい。」
病人のくせにと言いたくなるような腕の力で、上半身半身がベッドの中に引き摺り込まれる。
「ちょっと!翔太!」
「寒くて死ぬ。」
「だから、お母さんに頼んで……」
「雫以外はいらない。」
「……。」
ダメだ私。
こんなの良くないって思うのに……
翔太の言葉に弱い。
それに翔太の弱ってる姿見たら、引けなくなる。
「ちょっとだけだよ。」
ベッドの中に潜り込んだら、すぐに翔太の腕が私の腰の辺りに巻き付いた。
「温かい?」
「うん。それに落ち着く。」
翔太の腕に押されて、私は自然と彼の胸に顔を埋めてしまう。
「……は、早く治るといいね。」
翔太の腕の中にいたら、あの日のことを思い出してしまう。
心配で探しに行って、翔太に抱きしめられて謝られた日のこと。
あの日と同じぐらい心臓の鼓動がする。
でも、これは気の迷いなのだ。部屋で弱った男に抱きしめられているシチュエーションに酔っている。
それだけのこと。
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