始まりのキス

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15分もしたら翔太の寝息が聞こえて、緩んだ腕を抜けて、私はベッドから離れた。 ……冷えピタを後で貼ってあげよう。 部屋の灯りも消してから、階下におり、母と晩ご飯を食べた。 「私、明日、出かけてくるから。」 「えー?デート?」 母が目の前で丁寧に鯵の塩焼きの骨を取っている。 「何ですぐデートって言うかな。」 母にはまだ潤さんと付き合ったことは話していない。 「だって雫も年頃だから。ほら、この間も仕事帰りに晩ご飯食べに行ってたでしょ?翔ちゃんと彼氏かなって話してたの。」 「翔太とそんな話してたの!?」 だからあいつ、メイクが濃いとかグロスが派手とか言ってきたのか。 「翔ちゃん、ちょっと寂しそうだったわよ。」 「寂しそうって……」 私も母と同じように鯵の塩焼きの骨を取る。幼い頃に母に叩き込まれて、魚の骨取りは特技と言えるぐらい、最後は漫画の魚のように背骨だけ残したりもできる。ちなみに、翔太は魚料理は好きなくせに苦手で、一緒に食べる時は未だに私が骨を取ってあげている。 「翔太も彼女いるじゃん。ハルちゃんって子。」 「ハルちゃん……」 母が一瞬、天を仰いだ。 「あぁ、あの可愛らしい子ね。」 「会ったことあるの?」 そんな話、聞いていない。 「一度だけね。翔ちゃんの家の前で、二人で話しているのを見たことがあるの。可愛い笑顔で挨拶してくれたわ。」 「そうなんだ。」 可愛いんだ、ハルちゃん。ふーん。 魚の骨を取るのが得意なのに。 舌に小骨が引っかかって、思わず顔をしかめた。
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