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結局、その夜、翔太は起きてこなくて寝床を失った私はソファーで眠りに就いた。
朝起きたらもう翔太の姿はなく、私の部屋のベッドは元あった通りにベッドメイキングがなされていた。
関節が痛い……。
起きた時から何となく感じていた鈍い痛み。翔太にベッドを貸してあげたせいだ。ソファーで縮こまって寝たので、あちこち痛めたようだ。
「雫ちゃん?」
潤さんの声がして我に返る。暖炉で薪がぱちぱちと燃える古民家のカフェ。コーヒーとアップルパイを目の前に、私はフォークを握ったまま固まっていた。
固まるぐらいに関節が痛く体が怠い。
昼を過ぎてから、潤さんとお互いの中間地点で待ち合わせをした。今日は車で迎えに行くと言われていた。パールホワイトのSUV車を軽々の乗りこなす潤さんに、私はもうそれだけで「かっこいいー!!」って、心の中で腕と足をじたばたさせていた。
潤さんの運転で前から行きたいって話していた古民家カフェに連れて行ってもらい、その後は潤さんの家の近くでやっているイルミネーションを見に行って、彼の家に泊まらせてもらう。
私が想像だけを膨らませていた理想のデートが現実になろうとしている。
はずだったのに。
「今日は帰ろうか。」
潤さんにそう言われた。
「何でですか?」
せっかく朝から念入りにメイクをして、昨日買ったハイネックのバイゲージのニットにタイトな膝丈スカートとショートブーツを履いて、デート仕様に肩のあたりまでの髪も自然な感じに巻いてきたのに。
「雫ちゃん、熱あるでしょ?」
潤さんの手が頬に触れる。冷たくて擦り寄りたくなる。
「熱……?」
「うん、すごく熱いよ。イルミネーションは今月一杯はやってるし、また次にして、今日は家に帰って休もう。送っていくよ。」
「大丈夫ですよ?」
だって、せっかくのデートなのに。
「こんなに熱いのに、無理させたくない。」
「……。」
「どこかで風邪でももらったのかなぁ……」
風邪……どこかで……
そんなのあいつしかいない。
絶対に!!
いや、でもちょっとしか接触してないのに。
ちょっと傍にいただけなのに。
だけど、他に考えられない。どれだけ強い病原菌持ってたのよ!!
「許さん……あいつ……」
「し、雫ちゃん?」
「あ、何でもないです!」
怒りのせいで心の声が漏れ出てしまった。
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