始まりのキス

15/32
前へ
/137ページ
次へ
家の前まで潤さんに車で送ってもらった。その時には頭痛に寒気と、明らかに症状は悪化している。 潤さんが車を我が家の前に止めて、一緒に車から降りてきてくれた。 「ゆっくり休んでね。」 そう言って、彼の手が頬に触れた。 「熱が下がったら、今度はうちに泊まりにおいで。」 「潤さん……」 自分から目を閉じた。キスして欲しかった。 そう思ったのに。 「そいつにキスしない方がいいと思うよ。」 なんで!! としか言えない。 翔太がこちらに向かって気怠そうに歩いてくるから。 「えーっと……」 誰としか言えない得体の知れない男の登場に、潤さんは戸惑いを隠せず、助けを求めるように私の方を見た。 返事をしようとしたら、その前に翔太が私の腕を取って、自分の方に抱き寄せる。 「彼女、インフルエンザに罹ってると思うんで。キスしたら多分、うつるよ?」 「ちょっと、翔太!離して!てか、インフルエンザって何!?」 「俺がそうだったから。一緒に寝たんだから、雫にもうつってるよ。」 「あの!」 今度は潤さんに腕を引っ張られて、私は何とか翔太の腕の中から逃れられた。 「雫ちゃん……一緒に寝たって……」 「違います!寝てなんかいません!ちょっと翔太、誤解を招くようなこと言わないで!」 「俺が寒いって言ったら、添い寝してくれたじゃん。」 「してない!」 いや、したけど、あんなの少しだけだし、それに、したなんて潤さんに言えるわけがない。 「雫ちゃん」 潤さんが私の両肩を掴んで、自分の方に向かせた。 「熱のこともあるから、今日は帰ろうと思うんだけど、一つだけ聞かせて。彼はいったい誰?」 「彼は……」 近所の子で、色々あって、週に何日か我が家で過ごす子で……私とは……何なのだろう。私と翔太の関係。潤さんに説明できるような関係。 そんなの見当たらない。 「あの、彼とはいとこです!!」 言い切ってしまった。その言葉に潤さんは幾分安堵したようにも見えたが、私にはただただ後悔しか残らなかった。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

82人が本棚に入れています
本棚に追加