始まりのキス

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待ち合わせなんてするんじゃなかったと後悔の念が押し寄せる。改札の前で私を待つ翔太を見た瞬間、足が止まった。地面に接着剤でも付いていたのではないかと思うぐらいにピッタリと。 今までこんな風に遠目に翔太を見たことなんてなかった。 背が高いのは知っている。180センチ近くある。その背は群衆の中でも目立つ。オフホワイトのパーカーに黒のパンツ、ブルーグリーンのチェスターコート。そのコートの色、よく選んだなって普通は思うのだが、不思議と似合う。 目鼻立ちがはっきりとした顔のせい?髪の色のせい?インフルエンザが治ってから染め直して、今はグレーアッシュに片側は完全に刈り上げたアシンメトリーのツーブロックにしている。 「声かけろよ。」 動けずにいた私の元に翔太の方が歩み寄り、拳で軽く小突かれる。 「ご、ごめん。」 翔太は耳からイアフォンを外してケースにしまって、肩にかけた小ぶりのショルダーバッグに放り込んだ。 「行こう。」 「う、うん。」 ……私…なんか変!! なんだろ…なにか分からないけど…もそもそする。胸の真ん中あたり。 改札を抜ける翔太の後ろ姿に続く。 今までと逆になる。買い物の帰り、小学生の翔太は、少し先を歩く私の後を、小さな買い物袋を持ってついて来ていたのに。あの頃にはプチ反抗期を迎えていた翔太は、私の隣を歩くことは、理由もなく嫌だと言い、拒否したのだ。
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