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歩いている時、翔太と私は手を繋いだ。翔太が「繋ごう」って言ったから。いつ以来だろうか。こうやって手を繋いだのは。
最後に繋いだ時はまだ背も手も私よりも小さかったのに。
自分より大きい掌に胸がとくとくと音を立てるのはどうしてだろうか。
デパートで母に買うセーターに目星を付けて、デパート界隈に立ち並ぶブティックに足を向かわせる途中だった。
「あっ!」
翔太が突如として声を上げる。
「パンケーキ食べたい。」
「私も!」
デパートの人の多さに少し酔ってしまったところもあり、ここらで甘い物でも食べたいって気分だった。
「じゃあ行こう。」
翔太は図体は大きいくせに、実は甘党。子どもの頃からずっとそう。だから、私は彼がまだ小学生の頃はよくおやつにパンケーキを焼いてあげた。ホットケーキミックスがあれば失敗しないから。翔太はいつもそこにバニラアイスと蜂蜜をかけて食べていた。
こうやって一緒に過ごすと、ほろほろと翔太と過ごした日を思い出してしまう。8年って結構長い。
窓に面した並びの席に腰をかけて、パンケーキを2種類注文した。翔太はやはりバニラアイスと蜂蜜、それに苺やキウイのフルーツののったパンケーキを注文していた。
「相変わらずバニラアイスと蜂蜜が好きだよね。」
パンケーキが運ばれてするのを待っている時に、思わず口をついて出た言葉に、翔太は「あー……」と頷いた。
「雫がいつも作ってくれてたやつ、思い出すからかな。あの頃、俺の一番好きなおやつだったし。」
「……またいつでも焼いてあげるよ。」
一番好きおやつだったとか、過去形で言わないで欲しい。
「そう?じゃあ今度って言いたいけど、いつでもはもう無理でしょ。」
「えっ?」
「彼氏がいい顔しないよ。血の繋がりもない、何するかも分からないような男が彼女の傍にいるなんて知ったら。」
「……。」
何それ……いや、翔太の言うことは間違ってはいない…いないのに……
「あ、来たよ、パンケーキ。雫のも美味しそう。ちょっと食わせて。」
自分から離れようとするくせに、翔太はこっちに向かって口を開ける。食べさせてと言わんばかりに。
「待って。今、切るから。」
ナイフを持つ手がぎこちなくて、上手く切れない。それでも何とかフォークに生クリームとチョコレートソースとバナナのパンケーキを刺して、翔太の口に運んだ。
「バナナとチョコはやっぱり美味しいよなぁ。」
笑う顔は昔と同じ。甘いもの最高と伝えてくるいい笑顔。
私の前で無邪気な姿を見せる翔太に、胸がぎゅっと締め付けられて苦しくなる。
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