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ご飯を終えて、プリンも堪能した後で、私は翔太と食事の片付けをしてから、その流れでリビングのソファーに座っていた。
テレビからは見ている訳でもないが、ベストヒットという音楽系の特番が流れていた。母は私たちが片付けをしてくれるならと入浴中だ。
「あー、明日から仕事か。」
日曜日の夜はいつも現実に引き戻される。もう現実逃避はできないんだって。
「仕事、大変?」
「うん、12月だからね。銀行にとっては、一番、地獄の月な気がする。」
ボーナス、年末、新年の準備。それでも年末年始はきちんとお休みをもらえるのは、有り難いのかもしれない。
「……お母さん、嬉しそうだったね。」
テレビがコマーシャルに入った時に、自分から切り出した。今日の翔太の態度を思い出しながら。
「嬉しそう?」
「私たちの仲がいいこと。」
「まぁ、昔から俺たちのことを見てきたからねぇ。」
そう、私と同じように母も翔太のことを小学生の頃から知っている。
「ねぇ、私とは会えなくなっても、お母さんには会いに来てよ。」
「何、急に?」
伸ばしていた足をソファーにあげて、膝を抱えてから、翔太の方を見やる。これから話そうと思う内容に対して、じっと座っていることが落ち着かない。
「翔太、今日、私と離れるような雰囲気を出してきたでしょ。もう、この家にはあまり来られないって雰囲気。」
「だって……」
「お母さん、そんなことになったら、すごく悲しむと思うの。翔太のことが大切だもん。」
「……。」
急に沈黙。
基本的にはよく喋る翔太が押し黙るなんて。
「それ、俺の気持ちはどうなるの?」
「えっ?」
「ここに来れば、嫌でも雫に会うだろ。それとも、雫がこの家を出て行ってくれるの?」
「私が出る?何で?それはそれでお母さん悲しむよ。いいじゃん、私とは対して関わらないようにしたら……」
「そんなこと出来ると思ってんの?」
ぐっと翔太に腕を掴まれ引っ張られる。その弾みで、ただでさえソファーに膝を抱えて座るなんていうアンバランスな姿勢をしていた私は、翔太の胸の辺りに倒れこんだ。
「しょ…う…た?」
「こうやって近くにいたら触れたくなるんだよ。どれだけ俺が我慢してきたと思ってんの?早く大人になりたいってずっと思っているのに。」
瞬きを何回しただろうか。
翔太にキスされていた。
どうして?
って、無限ループの問い。
それでも拒めない。
拒みたくないって体が言っている。腕を翔太の背中に回して、離れたくないって。
「もう、帰る。雫の鈍感。」
唇が離れて、翔太は吐き捨てるように言うと、その場で動けずに固まる私を放って、出て行ってしまった。
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