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キスの日以来、翔太は我が家に来なくなった。メッセージは既読にならない。電話は出ない。近所に住んでいるのに、避けられているのかと思うぐらいに会わない。
仕事中も私は翔太のことばかり考えている。この多忙な12月に。本当は仕事に専念しないといけないのに。
翔太は私のことが好きだった?
でも、翔太にはハルちゃんがいる。
てか、何、しれっとキスしてんの。
彼女いるくせに、人の唇に気安く触れるな!!
そんな風に同じことを胸の中で、何度も呟いている。
そんな毎日の中、いつも通り仕事から帰宅した。
ここ数日、忙しさから残業続きだ。家に帰ると、既に母は食事を終えていことの方が多く、今日もそうだった。
食卓には鰤の照り焼きが黒い長皿に大根おろしと一緒に盛り付けられている。
「今日は鰤の照り焼きかぁ!美味しそう!」
そう言ってから、あれ?っと思う。長皿の隣に謎の封筒が置かれている。淡い水色の封筒で、A4用紙が三つ折りではいるサイズだ。
「何?この封筒?」
「それ?翔ちゃんが今日持ってきたの。雫に渡してって。」
「えっ!?翔太来たの!?」
慌てて鞄から自分のスマホを取り出す。
翔太からのメッセージはない。代わりに潤さんからクリスマスの予定を確認するメッセージが来ていた。
ディナーを食べて、この間、行けなかったイルミネーションに行こうって。
「……翔太、もう帰ったよね。」
「ええ。翔ちゃん、忙しいんだって。このクリスマスにライブするそうよ。急いで晩ご飯を食べて、封筒を置いて行っちゃった。これから真尋くんと曲作りするからって。」
流しの方に視線を向けると、翔太が残さず綺麗に平らげた食器がつけてある。
母は私の視線に気付いたのか、柔らかな笑みをこぼして、お茶碗に温め直した味噌汁をよそった。
「翔ちゃんね、本当はお魚を食べることすごく上手なのよ。」
「えっ?」
上手く骨が取れないから何とかしてっていつも私に言うのに?
「だって、翔ちゃんが中学生の時に、私が教えたもの。お魚を綺麗に食べられる男の子の方がかっこいいよって。」
「じゃあ、どうして……私の前ではいつも食べられないって……」
「そんなの決まってるじゃない。雫にかまって欲しかったからでしょ。」
「……。」
鞄からソーイングセット用の鋏を取り出し、封筒の端から切って、封を開いた。
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