始まりのキス

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中から出できたのは、ライブのチケットが1枚とダイヤモンドのピアスがひとつ。 「ダ、ダイヤモンド!?」  どういうこと!? 本物!? 普段でも使えるぐらいのサイズの一粒ダイヤのピアス。 思わず天井の灯りにかざしてみる。 本物…な気がする…いやいや、ちょっと待って!何考えてるの、あいつ! 身動きひとつできない私の元に、母が味噌汁と白ご飯を運んできて、「あらぁ!」と弾むような声を出した。 「翔ちゃんったら、ふふっ。」 「な、何?」 ふふって何? 「ダイヤモンドをお互いにひとつずつなんて、ロマンチストだなぁって。」 「……。」 「もうひとつはきっと、翔ちゃんが持ってるってことでしょ?もし、自分の気持ちを受け止めてくれるなら、それは雫に身に付けて欲しいってことでしょ。」 「だって私……」 力なくして床に座り込んでしまう。 「彼氏いる。それに、翔太のことを好きかどうかなんて、今すぐ答えなんて出せない。」 一緒にいるのが当たり前だったから。翔太の行動に胸がゴトリと動くこともあるけど、それを「好き!」に単純に結び付けていいとは思えない。 「雫、ひとつだけ大切な話。」 母が私と同じように床に座った。子どもの頃、母は私に伝えたいことや守って欲しいことがあると、視線を同じ高さにして、大切なお話とよく言った。 大人になった今、もちろんそんなことをされることはなかったが、母は昔と同じように、全てを包み込んでくれるような表情で私の目を見つめた。 「本当に大切な人は、いなくなってから気付くものよ。気付い時にはもう戻れないことの方が多い。」 「でも、私、ここで翔太の気持ちに応えるのは違うと思うの。」 潤さんに別れ話をして、翔太の元に行くなんて、都合が良過ぎる。 「私はね彼氏がいても、翔ちゃんと今までみたいな関係を続こともできると思っているの。彼氏と近所の男の子は別でしょって。雫だって大学生の時は、彼氏もいたけど、翔ちゃんとも一緒に過ごしていたでしょ。」 そう、私は大学1回生の終わりに2つ上の先輩と2年程付き合い、先輩が就職して忙しくなり、すれ違いの後、別れたのだ。 その時、翔太に我が家の敷居は踏ませないと言ったことはなく、翔太も私から離れるようとすることはなかった。
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