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真の再会
言い伝えのとおり、男は弾けて死んだ。過剰な再生により身体中に腫瘍が現れ、みるみる膨れ上がると、いっせいに弾けた。つんざく絶叫とおびただしい鮮血をまき散らして男は死に、やはり霧散してその場から消えた。
直後、男が寝ていたベッドに変化が起こった。たった今、霧散して消えた光の粒がベッドの上に集まり、人の姿を形作ると、ぱっと強烈な光を放った。
光のあとにあるのは、男の姿。
幾度となく繰り返された再誕が、魔人の目の前で起こり、
「――これは、どういうことだ?」
「私の血は特別でな」
男の姿が一変していた。
髪は黒々と艶を放ち、顔は凛々しく瑞々しい。肉体は強靭な筋肉に覆われ引き締まっている。死ぬ前の老体はどこにもない。
体力と気力がもっとも充実していた頃に、男の体は若返っていた。
驚きを隠せぬ男に、魔人はすでにふさがりつつある傷を示して、言う。
「私の血は老いさえも癒す。もっとも飲めば最後、いかなる者も確実に死ぬだろうが、お前にとっては些細なことだろう?」
魔人の言葉を男は理解できた。竜を統べる魔人の血には、それほどの力があっても不思議ではない。
ただ、男にはわからない。
「――なぜこんなことを。僕はお前の敵だ。またお前を殺すかもしれないのに」
朽ちゆくだけの堕ちた自分を、なぜ魔人は救い上げたのか。それが男にはわからない。
訝しむ男を見て、魔人はふっと笑みを浮かべ、
「そうだな。しかし今、お前の敵は私だけではあるまい」
魔人が片手を広げて掲げ、ぎりと握り潰す。
「まずは新たな敵を存分に倒し、殺し、思い知らせてやるがよい。たとえすべてを滅ぼしても私は一向に構わない」
魔人が握った手を開き、自らの胸に押し当てる。
「満足するまで世界を燃やし、いつの日かそれに飽いたとき、再び私と戦え」
そして、魔人は男へ手を差し伸べ、
「何度も何度も何度も戦い、何度も何度も何度も死し、何度も何度も何度も挑め」
そこでようやく、男は理解した。
すなわち――救ってくれた魔人の想いを、考えを、望みを。
――男が魔人を必要としていたように、魔人も男を必要としていたことを。
――かつての宿敵は、もはや宿敵ではないことを。
期待と渇望に満ちた声を聞いて、男はようやく理解した。
「――わかった」
男が、魔人の手を取る。
その顔から翳りが消え、かわりに英気が宿る。その身に再び力が戻り、にわかに生気があふれ出す。
真にかつての姿を取り戻した男に、魔人は再び告げた。
「また会えたな――勇者」
喜びに顔を染める魔人に、男もまた照れくさそうに笑みを返した。
「ああ、まあ会えたね――魔人」
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