挑む者

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挑む者

「魔人め、覚悟しろ。僕が来たからには――」  男の声が途切れた。当然だろう。首から上が消し飛んでもなお、話し続けられる人間はいない。  噴水のように血を吹かせながら、首なしの男が倒れる。   魔人は、背を向けたまま振り返りもしない。  男の頭を一撃で粉砕した尾を引き戻し、ひと薙ぎして付着した血と脳みそを振り払った。ただそれだけだった。  故に魔人は、男の死体がその場から霧散したことに気づかなかった。 「魔人め、今度こそ――っ!」  咄嗟にしゃがみ込む男。一瞬前まで男の頭があった場所を、魔人の尾が唸りを上げて薙ぎ払った。 「甘いぞ! それはもう見た――」  返す刀で、尾が男めがけて振り下ろされる。咄嗟の横っ飛びでどうにかかわしたが、男はバランスを崩したたらを踏む。  そこを、すでに引き戻されていた尾が一直線に襲い―― 「――っ!」  心臓もろとも、男の胸から背まで貫通した。  仕留めた相手ごと尾を高くもたげてから、初めて魔人は振り返った。  串刺しのままの男を見上げる。ぐったりと垂れた体が、ときどき思い出したかのように痙攣している。  魔人は男の姿に覚えはなかった。しかし、男が口走った言葉に違和感を覚えた。  ――今度こそ。  ――それはもう見た。  それはどういう意味か。  逡巡する魔人の目の前で、男の死体は霧散し、消えた。
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