12人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
挑む者
「魔人め、覚悟しろ。僕が来たからには――」
男の声が途切れた。当然だろう。首から上が消し飛んでもなお、話し続けられる人間はいない。
噴水のように血を吹かせながら、首なしの男が倒れる。
魔人は、背を向けたまま振り返りもしない。
男の頭を一撃で粉砕した尾を引き戻し、ひと薙ぎして付着した血と脳みそを振り払った。ただそれだけだった。
故に魔人は、男の死体がその場から霧散したことに気づかなかった。
「魔人め、今度こそ――っ!」
咄嗟にしゃがみ込む男。一瞬前まで男の頭があった場所を、魔人の尾が唸りを上げて薙ぎ払った。
「甘いぞ! それはもう見た――」
返す刀で、尾が男めがけて振り下ろされる。咄嗟の横っ飛びでどうにかかわしたが、男はバランスを崩したたらを踏む。
そこを、すでに引き戻されていた尾が一直線に襲い――
「――っ!」
心臓もろとも、男の胸から背まで貫通した。
仕留めた相手ごと尾を高くもたげてから、初めて魔人は振り返った。
串刺しのままの男を見上げる。ぐったりと垂れた体が、ときどき思い出したかのように痙攣している。
魔人は男の姿に覚えはなかった。しかし、男が口走った言葉に違和感を覚えた。
――今度こそ。
――それはもう見た。
それはどういう意味か。
逡巡する魔人の目の前で、男の死体は霧散し、消えた。
最初のコメントを投稿しよう!