再会

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再会

 男の居場所は容易に知れた。空を舞う飛竜から地を這う蜥蜴(とかげ)まで、すべて魔人の眷族である。彼らの耳目を用いれば、魔人に知れぬことなどない。  深い森の奥にあるぽつりとある、寂れた小さな一軒家だった。世界を救った英雄にはとてもふさわしくない、薄汚い小屋だった。  魔人は古びたドアの前に立った。ノックという作法を知らない魔人は、何のためらいもなく蹴り開ける。  ドアは真っ二つに叩き割れ、蝶番も吹き飛び、残骸が室内に転がる。  見る限り部屋はひとつしかなく、男の姿はすぐに見つかった。部屋の奥にあるベッドの上で半身を起こし、魔人を見つめている。  つかつかと歩み寄り、魔人が男を見下ろして言う。 「また会ったな」 「なぜ。お前は、確かにあのとき」  驚きに満ちた声。しかし、驚いているのは魔人も同じだった。  男の声は弱々しい。頬がこけ、その肉体は服の上からでもわかるほど細々としている。何より、最後の戦いで感じた凍てつくような鋭気が微塵も感じられない。 「私は滅びることはない。何度でも蘇る。さぁ、お前の宿敵が再び現れたぞ。どうする?」  魔人に睨みつけられた男は、しかし力なく首を振る。 「もう、いい。僕はこのざまだ」 「どうしたというのだ。もう一度、十年前のあの強さを見せてみろ」  魔人が炊きつけるが、男は顔色も声音も変えない。 「だから、もういいんだ」  魔人との会話だけで疲れ切ったという様子で、男はベッドに身を倒した。  ふつふつと、魔人の腹底から怒りと情けなさがこみ上げる。 「立て、鎧を着ろ。かの虹色の衣を羽織れ。槍を持て、剣を取れ」  魔人が矢継ぎ早に命じても、男は身じろぎひとつしない。  吠えるようにして、魔人は次々に言葉を放つ。 「私を討ち果たしたのは前だけだ」  ――私を打ち倒したのはお前だけだ。 「私を苦しませたのはお前だけだ」  ――私を楽しませたのはお前だけだ。 「もう一度、私を殺してみせろ」  ――もう一度、私を超えてみせろ。 「幾度死しても心折れず、幾度も挑んだ姿を再び見せろ」  ――そのために、そのためだけに、私はここにいるのだから。  火を吹かんばかりの激情が、魔人の口からあふれ出る。熱を帯びた言葉たちが、臥したままの男に降りかかる。  それでも、男は応えなかった。 「なぜだ。なぜ、お前はここまで堕ちたのだ」  魔人の問いに、男は大きく息をつき、語り始めた。
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