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パソコンを閉じてすぐに会社から出ようと思ったのに、暫くあのまま動けないでいた。
本来予定していた19時には病院に着いていたはずなのに、結局20時近くになってしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、背中を丸めて待機室で名前を呼ばれるのを待っていた。
普通の病院と一緒で、待機室はとても綺麗にされている。何なら普通の病院より温かい色を使われている気がするけど、少しだけ独特な雰囲気があるのは否めない。それは、私みたいな患者がいるからだろう。
いかにも負のオーラを漂わせている。そんな人間が見渡しても私しかいない。それがとても恥ずかしくて、更に背中を丸めた。
アナウンスで名前を呼ばれ、指定された診察室へ向かう。
ゆっくりとドアを開けると、パソコンから視線を外して私と目が合った先生は、優しく微笑みを浮かべた。
「どうぞ」
「失礼します」
椅子に座って、テーブルを挟んで向こうにいる先生と向き合わないといけないのだけれど、私は目を見れずに視線の先にある先生の手を見つめた。
「最近の調子はどう?」
「以前と変わらないです」
「そっか。以前と変わらない、か」
私の言葉を聞いて、再びパソコンと向き合う先生。
これから色々質問されるけど、嘘をついてもきっとバレる。定期的に血液検査をしているから。
それに、ここでは別に嘘をつく必要もない。
別に大したことではないはずなのに、それが今の私には有難くて、今日も素直に先生の質問に答えていく。
「薬飲んで以前と比べておかしいなってところは?」
「特にはないです」
「眠気は?」
「眠気は……一切ないですかね。喉が渇くくらいで」
「頭痛もしない?」
「はい。一切ないです」
「なるほどね」
パソコンに慣れた手つきで何かを打ち込み、今なら先生の顔を見れると思って視線を上げれば、パソコンと向き合っていたはずなのに先生と目が合った。いつからこちらを見ていたとか考える暇もなく、目を逸らしてはいけないって分かっていながらも私は耐えられなくてすぐに目を逸らしてしまった。
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