された側の運命

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された側の運命

 家に帰ってきた私は、家の鍵を閉めると同時に発作が起きてしまった。  過呼吸が今までよりも辛く感じ、弘樹がいないことから普段は抑えている泣き声や、苦しさを少しでも紛らすために『あぁ……』といった声を思う存分出してやった。  少しだけ落ち着いた頃、廊下で蹲っていた体に鞭を打ち、鞄から処方された抗不安剤を取り出した。意識が朦朧としながらも水で薬を飲むことが出来た私は、暫く動悸や何やらが収まるまで廊下で横になっていた。  暫くして落ち着きを取り戻すことが出来たけど、メイクを落とすことも、弘樹のご飯を作ることも、着替えることも何もかも出来なかった。ただ、薬だけは棚に隠すようにちゃんとしまうことが出来た。  そして、抗不安剤を飲んだばかりだというのに抗うつ剤も飲み、真っ暗闇の中、テレビだけをつけて過ごしていた。  テレビとの距離はそれほど遠くない。音量を5に設定しても普通の時はちゃんと聞こえる。でも、今は何一つとして聞こえない。  字幕を読んでいるというのに、その意味が皆無と言い切れてしまうほど頭に入ってこない。  ここまで酷い副作用は初めてだ。  多分、薬が合っていないのだろう。  それも当然と言えば当然か。強い薬に変えられたのだから。  言葉では表現の出来ない胃の痛みがずっと私を襲っているけれど、腹部を擦ることもなく、全身の力を抜いてソファの背もたれにもたれながら意味もなくテレビを見つめ続ける。そして、自分がうつ病になった時のことを思い出していた。  私がうつ病になったのは2年前。  今の職場に来てから。  再就職をして1週間が経った頃、突然の無視が始まった。戸惑いながらもまだまだ教えてもらわないといけないことが沢山あった為、挫けずに上司たちに質問などをしたけれど、返ってくるのは毎回怒号。  最初はもちろん我慢した。家に帰れば私を笑顔にしてくれる弘樹の存在があったし、誤魔化しながら職場の辛いことを話したりしてなんとか保っていた。けれどパワハラ、モラハラが許容範囲を超えるようになり、耐えられなくなってしまった私は病院に行ってうつ病と診断された。  そう診断されて、ショックなどはなかった。自分でもそう思っていたから。  薬を飲めば不安やイライラが多少は薄まるし、変なことを考えなくてもよくなる。薬に頼りっぱなしだけど、ずっと憂鬱な気持ちを抱き続けながらも職場のいじめだけならまだ堪えられていた。でも、そこに弘樹が浮気をしていることが発覚してからは不眠が更に酷くなり、憂鬱な気持ちは意識がない間以外続いたり、胃が痛くなったりと色々酷くなった。
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