された側の運命

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 私が2年もうつ病を長引かせているというのに、弘樹に言わないのには理由がある。    病気な彼女が可哀想だから傍に居る、という思いに変わってしまうのが嫌だったし怖かったから。その事に万が一自分が気づいてしまった時、立ち直れないくらいのショックを受けるって解っていたから。  でも、今思えば言っておけばよかったとも思う。  言っておけば、弘樹は浮気なんかしなかった……なんてまだ救いようのない考えをしてしまう自分がいる。  ふっと笑った自分の声が、異常に大きく聞こえた。  きっと、相手は可愛い人なんだろうな。  私はそもそも職場がダメだからネイルなんて出来ないけど、きっと可愛らしいネイルをしていて。メイクもちゃんとしていて、髪もサラサラで、私なんかと違って薬を飲んでないから浮腫んでなくて、すらっとした体型なんだろうな。  何もかもきちんとしていない私なんかと違って、きちんと自分磨きをしているのだろうから、そりゃあ浮気もされるか。  浮気されてもおかしくない事を自覚すると、この上なく消えたい気持ちになる。  いっそ、振ってくれたらいいのに。  そんなことを半年も考えているけれど、私から振るなんて選択はそもそも生まれなかった。  5年という年月は、決して短くないから。  きっと、弘樹も同じなのだろう。だから私を見捨てる勇気もないし、変な使命感に駆られてプロポーズをした。  緩くなってしまった婚約指輪を触りながらそう考える。    この指輪を薬指にはめてくれた時はピッタリのサイズだったのに、いつからこんなにも緩くなってしまったのだろう?  自分でも目に見えて痩せたと分かるのに、弘樹は気づかない。何一つと。  どうして気づかないのか。それは簡単。私にではなく、浮気相手に時間を使っているから。    分かり切ったことを改めて実感すると、沸々と腹の底から怒りが湧いてくるけれど、同時に悲しさも生まれてくるのがとても厄介だ。
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