された側の運命

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 余裕でクルクルと回ってしまう指輪をしつこいくらい触りながら、あの日、弘樹は恥ずかしそうにプロポーズをしてくれて、「はい」と返事をした私は号泣で。そんな私を優しく包み込んでくれたことを鮮明に思い出せるというのに……今はそれが苦しい思い出になってしまっているのが悲しかった。  もう弘樹は、あの時の幸福感を忘れてしまったのだろうか。いや……あの時から幸せもくそもないのか。  どうしてこんな人生になってしまったのか。  幸せになれるという確証がなかったとしても、幸せになるために生きることは間違いではなかったはず。弘樹と一緒に幸せになりたいと思うことも間違いではなかったはずなのに、こんな辛い気持ちを抱えたまま明日も生きないといけないって考えるだけで地獄で。それでも生きていかないといけない、と思って生きる人生は──果たして幸せなのだろうか。  今日一日、何も食べていないというのにまた胃痛を覚える。腹部にも何だか違和感を覚えるし、吐き気もするし、寒気だってしてくる。何も食べないのがよくなかったのかな? 「弥生?」  そんな声が聞こえて肩を揺らし、ハッとして目を大きく見開いて焦点を合わせると、目の前に膝をついて私の手を握りしめながら心配そうに私の顔を覗き込んでいる弘樹と目が合う。  夢か現実か区別がつかなかった私は何度も瞬きをして、姿勢を整えた時に自分の足が弘樹の膝に当たったことから〝これは現実〟ということに気づき、ひゅっと引いた息が喉に詰まった。  ぼーっとし過ぎていたのもあったけど、色んなことを集中して考えていたせいで弘樹が帰ってきたことも、リビングの明かりがついていることにも気づくことが出来なかった。
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