された側の運命

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「お、おかえり……」   「ただいま。大丈夫? 顔色悪いけど」 「うん……大丈夫」 「そっか。最近ぼーっとしてること多いね」 「…………そうかな?」  へぇ……〝そこは〟気づくんだね。  怒り、悲しみ、それらがいつものように同時に私を襲い、思わず自嘲した笑みがこぼれそうになった。 「何かあった?」  弘樹が何を考えてそう訊いてきたのかは理解できないけど、簡単にさらっと私にそう訊けてしまう弘樹に今にも負の感情が爆発しそうだった。  あなたの言う通り、あったよ。  むしろありまくりだよ。  表情管理が出来なくなって眉間にしわを寄せる私を心配そうに見つめるその表情もどうせ嘘だと思ってしまうくらい、今のあなたからは甘いニオイがして嫌でも色んな想像をしてしまう。それによって胃液が這い上がってくる不快な感覚を覚えるけど、首を横に振りながら『ううん、何もないよ』と誤魔化すしかなかった。  目を一度伏せてから時計へと目を向けると、時計の針は11時を指していた。  普段は2時に帰ってくるから早いと思ってしまったけれど、19時には帰って来ていた時よりかは遥かに遅くて。いつまでも過去に囚われ続けている自分がとても憐れで仕方がない。 「弥生」  弘樹と話すのすら体が拒んでどうしていいのか分からないのに、弘樹は私の名前を呼びながら寝てる私にではなく、起きている私を抱きしめた。それによって寝ている時と同じように至近距離で嫌いなニオイを嗅ぐことになり、私の眉間には自然としわが寄る。 「弘樹……離れて」 「朝は一瞬だったから」  弘樹はそう言うと、1ミリも隙間が出来ないようにと更に私を自分の方に引き寄せた。  朝とは違って大嫌いなあのニオイを纏いながら平気な顔をして私を抱きしめられる弘樹に私はどんどん眉が下がっていき、じわじわと侵食してくる負の感情が私の心を押し潰してくる。
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