された側の運命

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「久しぶりに弥生の顔がちゃんと見れてる」  いつもなら耐えられていた。きっと弘樹の背中に手を回して、自分の心が死のうが何だろうが必死に耐えていたと思う。  でも今日は、ついに恐れていた我慢の限界というものに達して、私を抱きしめていた弘樹を思い切り突き飛ばした。  やせ細った今の私にそんな力が出ること自体おかしいけど、今はそんなことを考える余裕なんてなかった。 「や、よい……?」  突き飛ばされたことが信じられないとばかりの表情を浮かべる弘樹に、私は忌々しく顔を背けた。 「……近寄らないで」 「何でそんなこと言うの……? 普通に傷つくよ」 「逆に、どうしてそんなことが言えるの……?」  私の言葉が心底理解できないのだろう。眉を下げて、状況が飲み込めていない表情を浮かべながらこちらを真っ直ぐ見ている弘樹に再び視線を向けた私は、口元も目元も怒りに歪んできっと見るに堪えないだろう。 「弘樹は、私が毎回どんな気持ちでいるとか考えたことあるの?」  声にならない「え」という声が漏れた弘樹に、私は更に怒りを覚えた。 「弘樹の為に作ったご飯を冷蔵庫に入れる私の気持ちとか、深夜になっても帰りを待っている時とか、嘘をつかれてるって分かってるのに返信している時とか、知らない甘い香りを纏わせながら私を抱きしめたり、キスをしたり、私が起きてるって知らずに電話に出て「好き」って言ってたり……私がいつも、どんな気持ちでいるか少しでも考えたことあった!?」  締め付けられるように胸が苦しくて、頭はガンガンと腹部はズキズキと痛んで、終いには鼻にツンとした痛みが走る。  きっと、この問題は言わないと解決しない。  ずっと我慢し続けて、見ざる聞かざる言わざるを貫いていたらお互いが辛いだけ。  私から仕掛けたのなら、私から〝それ〟をちゃんと言葉にしないといけない。  ガクガクと震えた唇で大きく息を吸い、喉の奥で一度詰まった言葉を無理やり出したせいか思ったよりも声が揺れた。 「どうして、浮気なんてしてるの……?」
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