された側の運命

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 多分、ずっと目に涙が浮かんでいたのだろう。  最初の一粒が眦からこぼれ落ちると、涙は歯止めが利かなくなり、私の頬をこれでもかというくらい濡らす。  一瞬にして涙でグチャグチャになった顔を手で覆うと、その手を弘樹は優しく包み込んだ。強さも、温もりも何もかも優しいというのに、この手は私以外に触れてきたのだと思うと吐き気を覚えた。 「ごめん弥生……」 「っ……」  ごめんと言われる度、何かが減っていくような感覚がする。 「でも、俺が愛してるのは弥生だけだから。俺には弥生しか」 「それなら、なんで浮気相手に〝好き〟だなんて言ったのよ!」  目の前から息を呑む音が聞こえ、剣呑さが更に増す。  心臓が信じられないくらい痛いし、喉からはひゅっという音が何度も聞こえてきて過呼吸を起こす寸前だった。けれど、今ここで過呼吸を起こせば、弘樹の話が聞けなくなるどころか話し合う機会を失ってしまうかもしれない。そう思った私は少しでも対策するように弘樹の手を振り払い、口元を手で覆ってゆっくり深呼吸をする。そんな私の手に弘樹は自分の手を重ねると、私の肩に頭を寄せた。 「俺が好きなのも、愛してるのも、大事にしたいと思うのも弥生しかいないよ……これは嘘じゃない。だから信じて……」  信じてという言葉が、こんなにも重苦しい言葉だなんて生まれて初めて知った。 「こうなった経緯を全部話すから、聞いてくれる……?」  肩が軽くなったから閉じていた目をゆっくり開けると、今にも泣き出しそうな弘樹と目が合い、その瞬間じわりと視界が滲んで弘樹ではなく私が涙を流していた。  涙は後から後からと溢れて止まらず、きっと弘樹の手も私の涙で濡れていた。でも弘樹はそんなこと気にもしていない様子というか、気づいていない様子で。眉を下げながら真っ直ぐこちらを見つめ続けているから、同じように私も瞬きをせずに見つめ返すけど目からまた涙がこぼれ落ちて、涙が頬を濡らすと同時に私はコクリと頷いた。 「ありがとう」と呟いた弘樹は、私の手に重ねていた手を自分の膝の上に置いた。
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