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病気を出しに使って無理矢理弘樹を奪い取った浮気相手にも、ごめんと謝る弘樹にも腹が立つ。
どんな理由だろうと私に隠していたのだから普通の浮気と何も変わらないわけだし、そもそも何でその時に言ってくれなかったの? 何で自分だけで決めて、追い込まれてるの? 私に相談していたら、弘樹だって気持ち的に楽だっただろうに。
こんな仕打ちをされたというのに弘樹の心配をしてしまう自分にも当然腹が立つし、何よりも悔しいという気持ちが心を埋め尽くす。
「私ならきっと理解してくれるって思ってたんでしょ……? 理解なんか出来ないよ。弘樹が味わってる何倍も私は辛いし、何よりも裏切られたんだから……」
悔しい。本当に悔しい。
何がここまで悔しいかというと、浮気相手が辛い時に弘樹は傍に居てあげたというのに、私が辛い時には傍に居てくれなかった。その事実が死ぬほど悔しい。
これじゃ、どっちが浮気相手か分からない。
ふっと自嘲の笑みがこぼれるほど、馬鹿馬鹿しかった。
私だって、毎日死にたくて仕方がないよ。毎日毎日パワハラ、モラハラが繰り返されていて、それを必死に耐えて、終いにはうつ病になってさ。
思ったんだけど、その子、本当に病気なの?
私と同じで、死ぬ勇気もないのに死にたいって言ってるだけなんじゃないの?
弘樹の傍に居たいから、嘘をついてるだけなんじゃないの?
そんなこと考えてはいけないって分かってる。けれど、そうでもしないと……あまりにも私が憐れじゃない。
変に同情されるのが嫌だった。だから今まで隠してた。吐き出したかったのを、必死になって我慢した。それなのに……こんな馬鹿みたいな事に巻き込まれるくらいなら言っておけばよかった。
目に溜まっていた涙が抑えきれなくて眦からこぼれ落ちて頬を濡らすと同時に、私は我慢していたことを口にした。
「私だって……私だって、病気なのに」
言ってすぐに後悔すると思ってた。
けれど実際はそうではなかった。
あぁ……やっと。本当にやっと、自分が病気だということを弘樹に言うことが出来た。
長年言わないでいた言葉を口にしたことによって、心が少しだけ軽くなった気がして何だか泣きそうな気分だった。
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