41人が本棚に入れています
本棚に追加
やっとの思いで口にしたというのに、目の前にいる弘樹はうんともすんとも言わない。胸騒ぎを覚え、恐る恐る視線を上げれば、静かにこちらを真っ直ぐ見据える弘樹と目が合った。
ぐらりと視界が揺れ、ドクンッと今まで聞いたこともない心臓の音が不快なくらい耳に届いた。
忌々しそうに私から顔を背けた弘樹を見て微かな胸の痛みを感じた後、頭に浮かんだ弘樹という言葉は声にはならなかった
「何で嘘つくの?」
「なっ……!?」
「何で今、そんな嘘をつくの?」
「嘘じゃ……嘘じゃない」
「そう言えば、同情してもらえるって思ったの?」
「ち、違う!」
キュッと締まった喉で必死になって声にしても、弘樹は信じてくれなかった。
「普通に不謹慎だろ……」
別に不謹慎じゃないよ。
顔も名前も知らない浮気相手と違って、私はちゃんと病気だよ。
精神科に2年も通ってる、うつ病患者だよ。
「弥生がそんなやつだと思わなかった……」
何よそれ。
今更、私に幻滅したってこと?
けれど、そんな強気な発言など私には出来なかった。
「まって……勘違いしてる」
「なんだよ、勘違いって」
嫌われた。
それだけは確実に分かった。
けれど、どうして私がこんな仕打ちを受けないといけないのか解らない。
私は浮気を〝された側〟で
弘樹は〝した側〟
した側を許すか許さないかは私が決めて、その後どう動くかも全て私が主導権を握っているはずなのに、この仕打ちはあんまりなのでは?
最初のコメントを投稿しよう!