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「ごめん。頭冷やすために、暫く家空ける」
……は?
きっと、そんな声が漏れていたと思う。
浮気を認め、謝って、どうして浮気をしたのかを全て話した上で、また浮気相手の所に行こうとしてるの?
実際、どうかは知らない。近くのホテルに泊まったり、知り合いの家に行ったりと色んなことが想像できるはずだというのに、私は浮気相手の所に泊まる気だ。というその考えしか頭になかった。
私から離れ、本当に家から出て行こうとしている弘樹に、咽喉の奥からせり上がってきたものを我慢することが出来なかった。
「私の言葉より、浮気相手の言葉を信じるのっ!?」
私の言葉を聞いても尚、弘樹は迷ったりせず、こちらを一度も振り向かないで帰ってきたまんまの、あの嫌な香水を纏ったまま家から出て行った。弘樹の後ろ姿が見えなくなり、玄関のドアが閉まる音が聞こえると、弘樹に対する悲鳴のような糾弾はやがて静かな嗚咽に変わり、私はその場に崩れ落ちた。
浮気相手の言葉は信じて、5年付き合っている私の言葉は信じないんだ。
俺が愛してるのは弥生だけだからって。俺が好きなのも、愛してるのも、大事にしたいと思うのも弥生しかいないって。嘘じゃない、信じてって言ったくせに……私の言葉は信じてくれないんだ。
でも、これではっきりと分かった。
私は〝その程度の存在〟だったということに。
絶望という言葉が今の私を表すのには最適で。その中に苛立ち、不安らがまた一度に襲いかかってきて、発作が起きてしまうと思った私は、這いつくばるように薬を隠している棚へと向かう。
視界は滲み、異常なほど震えている手では薬を上手く取り出せなくて、手のひらにやっと乗ったと思えば、虚しく床へと落ちる。
「っ……」
恐怖を覚えるほど不安が膨れ上がり、何度も何度も床に落ちてしまう薬たちを見て、飲めないと諦めた私は再び床へと逆戻った。
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