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どこに弘樹が行ったのかも分からないというのに、必死になって弘樹を追いかけた。そんな私とすれ違った人たちはみんなして困惑していたし、異常者がいると軽蔑した視線を感じたし、鼻でふっと笑う声が微かに聞こえていた。
それもそうだ。髪もボサボサで、メイクもグチャグチャで、ぐずぐすと嗚咽を漏らしながら必死になって走っているのだから。
普段なら人の視線に敏感だけど、今は弘樹に会いたくて、引き留めたくて必死に夜の街を走っていた私は、人の視線や声にいちいち反応している暇などなかった。
夜の街は見づらくて仕方がない。涙のせいか、それとも元からなのかすら判断できないくらい、私の精神状態は不安定だった。こんな状態で弘樹を見つけることが出来るのか。もしすれ違ったとしても、こんな視界の悪さだったら気づかないのではないか、など色んな不安が私を襲う。
それから暫く走り、古いビルが立ち並ぶ一角にやってきた時、ドンッと角を曲がってきた通行人と勢いよくぶつかった。
ただ、私にはぶつかった感覚はなく、何事もなかったかのように弘樹を探しに行こうとした時だった。
「あれ? 弥生ちゃん?」
聞き覚えのある声に、私の足は余韻を残さずに止まった。
絶望という言葉が、更に私に突き刺さる。
無視など絶対に出来ず、キュウッと喉が締まりながら恐る恐る後ろを振り返る。
「やっぱり、弥生ちゃんだ」
親しげに私の名前を呼んだ人物は、弘樹のお兄さんで湊さんだった。
両手で数えられる程度しか会っていないけど、私にとても良くしてくれる優しい人。湊さんがその場にいるだけで雰囲気が明るくなるし、何よりも声をかける言葉選びがとても上手な印象。だから弘樹も凄く慕っている。
でも、こんな時に会いたくなかった。
「み、なと……さん……」
「久しぶりだね! 元気……」
元気とまで言った湊さんは、目を大きく見開いて驚いていた。
私は知っている。その次の行動を。
次に来るのは必ず、同情の眼差しだということを。
「弥生ちゃん、凄く痩せたね……?」
湊さんのこの一言で、必死に保っていた何かが崩れた。
なんで……なんで湊さんは気づくのに、弘樹は気づいてくれないの……?
ひゅっと引いた息が喉に詰まり、胸はギュウッと締め付けられ、そして何故か背中までもが痛くなり始める。
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