41人が本棚に入れています
本棚に追加
「久しぶりに会えて嬉しいよ。この後少しだけでも時間ある? よかったら……どうしたの!?」
私が泣いていることに気づいた湊さんはポケットからハンカチを取り出し、こちらに差し出しながら距離を縮めてくるのを私は何故か他人事のように眺めていた。
魂が今にも私から離れていきそうな、そんな感覚に陥っていたから。
「どうしてそんな泣いて……もしかして、弘樹と何かあった?」
「…………」
「弥生ちゃんをこんなに泣かせるようなことをあの馬鹿は言ったんだね……ごめんね。アイツ一度でも決めたらそれを」
優しい話し方のまま、弘樹ではなく私の味方をしてくれた湊さんはその後も何か言っていたけど、私の耳には面白いくらい届いていなかった。それは多分、無駄に息が上がっていたのと、自分の心臓の音が大きすぎたから。
胃の痛みも今までと比べ物にならないくらい凄まじくて、息が出来ないくらい背中と腹部が痛くて、お腹が変に膨張してきてる感覚もする。
変な汗が浮かび上がってくるし、胃液が這い上がってきて我慢できず今にも吐きそう。
湊さんの姿も、その後ろにある建物も変に揺れている。視界が狭くなって、焦点すら合わない。泣いているからそう見えるのかと思っていたけれど、意識が朦朧としているから何もかもおかしいのだとやっと気づいた私は、そこでようやく自覚する。
──もう駄目だと。
私は、知らない間に〝何か〟に蝕まれていたみたい。
なるほどね。だからあの時、あんな力が出たのか。
あぁ……こんなことになるなら、最期に伝えたかったな。
私はただ、寄り添ってほしかっただけだったんだよって。
自分の体がおかしいことなんて自分が一番解ってたんだから、弘樹を責めずに私を受け入れてもらえる方向に持っていけばよかったと今更後悔する。
湊さんの「弥生ちゃん……?」という声が合図となり、ブチッッ──と何かが物凄い音を立てて切れると同時に、私は全身の力が抜けてその場に倒れ込んだ。その拍子にゴンッと地面に強く頭を打ったけど、痛みは感じなかった。それどころか、体を蝕んでいた痛みすら、もうなかった。
最初のコメントを投稿しよう!