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歩いている。別に歩きたいから歩いている訳ではない。
それは習慣か、若しくは宿命だ。
歩くしかないのである。だから私は歩いていた。
人は速い電気車に乗って次の地点に向かっていた。人が増えたり減ったりした。私の体は浮いたり沈んだりした。偶には叫ぶ人や倒れる人も現れた。それでも大半の人たちは次の地点へ辿り着いた。
辿り着くと今度は地下へ潜った。
人は行列をなして流れて進み、地下の道へとなだれ込む。まるで亡霊だ。何を考えているのかとんと検討もつかない。能面のような顔が次々と地下へと飲み込まれていく。そしてまた、私の顔も能面だった。それは判っている。つまりはこの亡霊たちは、やはり人間なのであった。私と同じく、能面の下で何かを考えているのであった。
それを忘れてはならない。他人も何かを考えている。亡霊ではなく、画像ではない。肉であり骨である。血であるのだ。
忘れがちだが、決して忘れてはならない。
私は地下道を歩く。人も歩く。いち早く地上に出る者もあるが、私はまだまだ地下を歩く。追い越されたり追い越したりする。人の足は速い。私も速い。人は流動し、さらに次の地点へと向かう。
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