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そして最後の事件。
待ち侘びたかの様に話し出す舟越。
「自分の失態を晒す様で、申し訳ないです。完璧な警備体制のはずが…」
「主観論はいいから、事実を教えてくれるかな」
「あ、つい…すみません。新型移送車両には、本庁からドライバー役の私と、先輩の津川さんが隣座席に。府中刑務所の刑務官が2名、最後部のセーフティシートにいて、移送する囚人は10名。何れも65歳以上の高齢者でした」
「移送先は最新設備を備えた、三鷹市の東京久我山刑務所…でしたよね」
緊張気味の舟越のため、敢えて口を挟む久宝。
「そこ、この前テレビでやってました!確か…花山総監も出てましたよね?」
「まぁ一応、警察組織のトップですので。テレビ取材の話が来るとは、思いませんでしたが。可哀想に、新人レポーターが貧乏くじ引いた様で」
貧乏くじの意味はみんな理解していた。
地元市民による、反対デモを取材したものであり、喜ばしい出演では無かったのである。
「それで?」
「場所は調布インターチェンジのゲートで、私は後ろを見に降りたんです。すると、隣レーンの車から何人かが降りて発砲し、津川さんの抵抗する声は、銃声の後…消えました」
「なぜ高速へ? 三鷹市の監獄までは、遠くはなく、国道で行く予定だったはず」
「津川さんが、予定は読まれていたら危険だと言って、わざと急に変えたんです。載せている囚人は、全員が重大犯罪者。なる程と思いました」
「その裏を読まれたって? 気に入らねぇな。その津川ってのは、犯人とグルか、或いは主犯じゃねぇのか?」
「そんな、先輩に限って…考えられません❗️」
(迷い?)
「移送車の爆弾は、あらかじめ仕掛けられていたもの…ですよね?豊川さん」
紗夜の問いにうなずく豊川。
「最後に点検したのは?」
答えを知っての問い掛けである。
「それは…津川さんでした。誰よりもあの特別車両を理解していましたから」
「つまり、最後部の邪魔な2人を吹き飛ばしても、走行に支障はないと知ってたのね」
「桐谷刑事…皆さんも、どうして津川さんを疑うんですか? 彼は抵抗して、撃たれたんですよ!」
「見たの?」
「えっ?」
紗夜の鋭い指摘に戸惑う。
彼の位置からは、周りの爆煙で見えなかった。
「見てないでしょ、舟越さん。それに、死んでなかったとしても、撃った彼を連れていく理由はない。邪魔になるだけ。しかし、連れ去った」
「私達はね、安易に仲間を疑ったりはしない。ましてや、あなたの教官をね」
桐谷が昴に合図する。
モニターに、彼の経歴が映った。
「津川 光彦。彼の兄も刑事で、当時の上の不正を暴こうとして、チンピラに撃たれて殉職。ですね、富士本さん」
「真田の言う通りだ。そして告訴しようとした妻は、不慮の事故で死亡。それ以降、不正を暴こうとした者はいないんだ。家族は大切だからな」
舟越の知らない津川の境遇。
今から思えば、思い当たる点もある。
「その黒幕が、あの特別車両に乗っていました」
紗夜の言葉に合わせて、昴がリストを映し、特定の名前をアップする。
「風井 英正…元警視総監。長く警察の頂点に君臨した権力者」
紗夜とは、切っても切れない宿敵。
その風井も、ついにこの世から消え去った。
それを告げる声が割り込む。
「高速に乗って2km先で、移送車と2台のワゴン車が止まった。直ぐに発煙弾が周りに撃たれて、ヘリからではほとんど見えず、周りにいた何台かが煙から逃げる様に走り出し…ドカン💥」
「凛、追跡サンキュー」
桐谷の要請で、お台場のTERRA屋上から、専用ジェットヘリで向かった、新咲 凛。
TERRAコーポレーション社長、トーイ・ラブの芸能マネージャーであり、ボディーガード。
そして、機密工作員的な存在でもある。
「爆弾は、車内に仕掛けられてた様で、一瞬車体が膨らんだ様に見え、鈍い爆音と共に後部から炎🔥が噴き出した。まるでロケットみたいにね」
「例の爆弾と同じだ。あれが狭い車内で爆発したら、一瞬で中のモノは粉砕されて焼失。遺体は全く確認出来なかった」
部下を出動させた豊川。
現場検証で、何も得られないのは初めてである。
「尚、防御された運転席部分は無事で…誰もおらず、血痕などもなし。指紋は舟越さん、あなたのものだけだった」
「そうですか…そう言えば…津川さんは、薄い手袋をしてました」
無事であったことは喜ばしい。
しかし、それは同時に犯人か協力者を意味する。
「その直後、2台のワゴン車が爆発💥。どうやら、逃げ出した車の中に乗り込んだみたいね。完全にやられたわ」
「映像はTERRA《うち》のアイに送って、追跡調査したけど、無理だったわ。たまたま次の高井戸ICのカメラは故障してたしね」
「ありがとう、凛さん」
「紗夜さん、皆んな気を付けて。必要ならバックアップするわ。ラブに指示されてるから」
隣のTERRAと、協力体制になっていることは知っていた舟越だが、改めてトーイ・ラブと言う大スターに感心した。
「豊川さん…10名の囚人は、本当に全員死んだのでしょうか?」
「あの車内に居たらな。どんな拘束状態だったかは知らねぇが、救出出来ないはずはない。だから紗夜さん、それには正確には答えられねぇ」
映し出されたリストを、じっと見つめる紗夜達であった。
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