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【3】終焉の始まり
全ての事件の報告が終わった。
偶然にしては、余りにも輻輳した事件。
次の動きが、全く見えない中、咲が采配を振る。
「豊川さん、輸送車両は地下倉庫に運ばせたから、何とか死亡者と逃亡者を特定して下さい」
「了解、手間を取らせたな。うちの威信に懸けて、メンバー全員で取り掛かるぜ」
そう言って、刑事課奥にある階段で、上の階の職場へと戻って行った。
「生きてるか分からないものは、とりあえず置いといて、淳一と久宝は、新龍会の神林尚人を見つけて。草吹甲斐が生きてるとしたら、きっと彼が関わっているはず」
「了解、まずは新龍会へ行くぜ久宝」
「はい、必ず探し出しましょう」
2人とも、神林をずっと気に入らず、逮捕する機会を待ち望んでいた。
「真田と蓮は、府中刑務所で10名について調べてみて。面会者とか、医療記録も」
「なるほど。脱獄させるなら、恐らくコンタクトを図りますね。分かりました」
さすがは刑事課長の肩書は、伊達じゃないと感心する真田。
「昴は爆破犯の再捜査と、皆んなのサポートを。それから、アイに協力して貰い、美波を探して」
「了解しました、咲様」
作戦会議室のスピーカーから、アイの声がした。
「紗夜は、神たちと共同で、雅を探して。あなたの力が頼りよ」
「それ、私も付き合うわ。八角って執事から話も聞いたし。相手は人間じゃないから」
「KANNA⁉️ 生きていたの❗️」
驚きの余り、聞いていたラブが割り込んだ。
「まぁね…元々生きているかは微妙だけど。とりあえず太平洋の海底からは、脱出したわ。もう勘弁してよねラブ」
生前の本名は、七森 華奈。
復讐のために、堕天使ルシファーに魂を預け、その化身となった不死身の少女。
トーイ・ラブに救われ、TERRAの一員となり、世界の敵と戦っている。
「ラブさんも、聞いていましたか」
「富士本さん、今回の事件には、あなた方警察の領域を超えた、常識外の存在もいます。それに…私は最初から、この時がいつか来る予感がしていました。新咲凛とティーク、そしてアイと私も協力します」
「それは大変心強い。正直なところ、美波と雅については、我々警察では相手にならないかと、困っていたところです」
「新龍会を出たなら、神林の狙いはただ一つ。妹を殺凛への復讐。実はTERRAの月島風花と連絡が取れません。恐らく神林に拉致されたものと見ています」
「なぜ風花さんを?」
「ラブ、それって本当か⁉️」
「ごめん凛、私もさっき知ったばかりで」
「クソッ、やっぱりもっと早く殺っておけば良かった。富士本さん、風花は私の妹よ❗️」
本名は、箔 沐阳。
知っている者は少ない。
もとより、新咲凛が最強の暗殺者、箔 傅凛であったことは、極秘事項である。
ラブと戦って敗れながらも、標的は契約通りに殺害を成し遂げ、顔を変えて仲間となった。
「では、そう言うことで。凛、気を付けてね」
「よし! 強い味方もいるから、さっさと始めましょ、皆んなよろしく❗️」
咲の合図で解散する皆んな。
ただ1人、紗夜を除いて。
「富士本さん、少しいいですか?」
「いいが…どうした、紗夜?」
紗夜を連れ、部長室へ入る。
部長席に座り、紗夜を見た。
少しの間そのまま。
紗夜を引き取った日からの思い出。
育ての親、姫城正明に富士本恭介の思い出。
それぞれに、懐かしく思い出していた。
そして。
「出来れば、私は知りたくは無かった」
富士本が、その重たい口を開いた。
「私も育ての親である富士本さんを、読みたくは無かった。しかし、最近の私に対する気質の変化は、気になって。それに、先程のラブさんの言葉。あれは、私のことだと感じました」
事実ラブには、いつか紗夜と戦う日が来る。
その予感がしていたのである。
「紗夜、君の中に居るモノの正体を、私は知ってしまった。姫城警部が探し求めていたモノであり、巨大な力を持つ怨霊だと言うことを」
見つめ合う2人の目から、涙が流れた。
「富士本さん、それ以上は口にしないでください。アレを抑えられなくなる。あなたを殺したくはないから。私は、私が紗夜でいられるうちに雅を見つけ、必ず片付けます」
それを告げ、振り向いて出ていく紗夜。
「紗夜!」
呼び止める富士本。
「今まで、ありがとうございました。出来れば私のことは、探さないでください」
そう言って、ドアが閉まった。
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