【3】終焉の始まり

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〜千代田区市ヶ谷〜 新龍会の所有するビルや隠れ家を巡る(じん)。 302号線靖国通りを新宿へ、赤いベンツが走る。 「原田…」 神が、耳の通信機をONにした。 「はい、分かってます神さん」 飛鳥神の専属ドライバー原田(はらだ) (みさき)。 その目が、減速する前のワゴン車と、サイドミラーに映る後ろのBMWを見る。 「咲ちゃんに知れたら、またヒールで蹴られちまうぜ。ちょっと黙ってろ。お前がトイレになんかへ行くからだぜ」 神が、『咲ちゃん』と呼ぶことはない。 それを知る原田が合わせる。 「だって神さん、もう破裂するかも知れなかったんすから、勘弁してくださいよ」 「ナビは必要ねぇだろ。テレビでもつけろ」 黒サングラスをかけた目で、車内を見回す。 「テレビはさっきから映像がダメっすよ、これ」 原田も、運転席と助手席を見回しながら答えた。 「チッ、音だけかよ。いつからだ?」 「さっきの飯田橋ニコニコファイナンスとか言うビルを出た時からです。また壊れやがって…」 この会話を、通信機で全員が聞いた。 〜警視庁対策本部〜 咲が昴に合図し、昴がアイに告げ、神を通信回線から外す。 「皆んな良く聞いて。神のベンツに盗聴器が仕掛けられ、尾行されている模様。監視カメラはないけど、爆弾を仕掛けられた可能性あり」 「こちら久宝。近いので、淳さんと飯田橋のニコニコクレジットへ向かいます」 「了解。所轄に連絡して応援を送るわ。神林らが潜んでいる可能性あり、気をつけて」 (神…死なないでよ) 「咲さん、安心して。私が守るから」 「えっ…凛?」 「爆弾はないわ、見てたから」 BMWの斜め後ろに、黒いバイクが1台。 探す場所は、同じ世界にいる神が頼りである。 そう考えて、尾行していた凛。 バイクもスーツも、戦闘仕様である。 「アイ、神に繋いで」 瞬時に対応するアイ。 ヘルメットシールドの右上に映る地図。 「神、次を左に入って、一つ目の小さな交差点を過ぎたら停車。車に爆弾はないわ」 (凛か) 「原田左だ!」 丁度、前のワゴン車がブレーキをかけた。 寸前で左折し、狭い裏道に入った。 BMWも後を追う。 その後ろに、凛のバイクはもういない。 一つ目の小さな交差点を過ぎる、赤いベンツ。 その後に続く黒いBMW。 「バシュ!」 先に左折し、その交差点へ左から来た凛のバイクから、小型ミサイルが発射された。 「ズドーン💥❗️」 真横に命中し、コースを逸れて転がるBMW。 急ブレーキをかけて止まったベンツ。 その少し前で、驚いた老人が転んだ。 「あちゃー」 慌てて降りて駆け寄る原田。 「ん?…原田、伏せろ❗️」 降りた神が、老人を見て叫んだ。 「えっ?」 理解できない原田だが、プロレーサー並みの反射神経が成す素早さで、地に伏せる。 「ガガガガガガ💥💥」 その上を、マシンガンの銃弾がベンツを襲う。 ドアを盾にし、身を守る神。 「何っ⁉️」 ベンツを踏み台にし、凛のバイクが老人へ跳ぶ。 同時に、神の上を軽々と飛び越える凛。 「クッ!」 老人とは思えぬ素早さで跳びすさり、落ちて来たバイクを避けた。 それへ、双剣を手にした凛が走る。 その前方。 停まったワゴン車のスライドドアが開いた。 「ガガガガ💥ガガガガ💥」 ワゴン車から2人が降りて、マシンガンを放つ。 「チッ!」 咄嗟に左の喫茶店のガラスを、体で突き破って中へ飛び込む凛。 「早く乗れ❗️」 叫ぶ男より早く、老人がワゴン車へ走る。 「ダン💥ダン💥ダン💥」 その背中へ神の弾丸が命中した。 「グッ…」 少しバランスを崩しながらも、車に飛び乗る。 (何? 殺し屋が防弾ベストかよ!) ドアが閉まる寸前。 「バシュ!」 飛び出した凛の銃弾が、車内へ撃ち込まれた。 走り去るワゴン車。 原田と神が、凛の横に並ぶ。 「助かったぜ、凛」 「仕留め損なったわ。アイツは伝説の殺し屋、リュウ・ウォンシン」 「あぁ、知ってるぜ。兄のワンジンは、鬼島(きじま)と一緒に死んだ。高知で奴を捕まえて、両脚の筋を切断し、再起不能のはずだがな」 「だから狙われたのか。なぜその時に殺さなかった? 相手は1000人殺しの殺し屋だぞ?」 「完全優位で、あんな老人を殺すのは、俺の流儀に反する。復帰不能のまま監獄行きで十分かと」 「神さん…ピンピンしてやしたぜ?」 「草吹…甲斐の仕業か。全て神林の企みね。例の移送車リストに、アイツの名前があったわ」 これで全ての事件が繋がった。 ただ、復讐だけが狙いではない気がした。 「しかし、TERRAの防弾技術はスゲェっすね。あれだけ撃たれて、ほとんど弾き返してる」 「…誰かさんが、踏み台にさえしなけりゃな」 リヤ部分から屋根までが凹み、タイヤの跡までクッキリ残っていた。 「あれはその…咄嗟のことで、奴がいるとは聞いてなかったし。とにかく無事で何より。では!」 自動運転で戻って来たバイクに乗り、そそくさと、去って行く凛。 〜ワゴン車内〜 状況を報告する男。 「神林さん、すみません。襲撃は失敗しました」 「おっと、伝説の殺し屋と聞いていたが? 加齢のせいで腕が鈍ったか、リュウ・ウォンシン」 「バカな。敵に最強の暗殺者、双剣の(はく) 傅凛(フーリン)がいるとは聞いてなかった」 「傅凛は、確かラブと戦って死んだはずだが?」 「神林さん、そのラブの所にいる新咲凛です」 「何…凛がいたのか?」 声のトーンが明らかに変わった。 「なるほど、妹の夢眠(ゆみ)が負けた理由は、そう言うことか…。箔・傅凛だったとはな。ウォンシン、お前の狙いは飛鳥神。そして私の狙いは新咲凛だ。()れるか?」 「問うまでもなかろう。()れと言え。脱獄の上、この脚まで修復してもらい、断る理由はない」 「では()れ。失敗は許さん❗️」 復讐の炎を燃え(たぎ)らす2人であった。
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