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〜江東区清澄〜
女性が1人、大きな門の前でタクシーを降りた。高嶺ワールドトレーディング(株)社長、高嶺 真純社長の邸宅である。
門を見上げ、インターホンを押す。
「はい、どちら様でしょうか?」
執事の八角 友蔵がモニターを見る。
黒いフードマントを被り、カメラを見ていた。
童顔ではあるが、どこか異質な雰囲気がある。
「TERRAコーポレーションのKANNAです。高嶺 雅について、あなたに少し話を聞きたくて来ました」
社名を聞いて安心しかけ、雅と聞いて警戒する。
少し間をおいて、開門ボタンを押した。
「KANNA様、そのまま真っ直ぐに、正面の建物へお進みください」
言われるままに歩く。
玉砂利に石畳。
よく整備された庭園が広がる。
その真ん中に、和風の大きな屋敷があった。
(東京とは思えないわね)
感心しながら進むと、屋敷の引き戸が開き、タキシード姿の小柄な年配の男が現れた。
「執事をしております、八角と申します。靴はそのまま、どうぞ中へお入りください」
外観とは異なり、フロアには大理石の床が広がり、高そうな骨董品や絵画で飾られている。
「コートをお預かりしましょうか?」
「いや、このままで」
貴賓館を思わせる洋間に入り、フランス家具のテーブルで、引かれた椅子に腰掛けた。
「お飲み物は、いかがいたしましょうか?」
「アールグレイティーをお願いします」
「ベースは、ダージリン、キームン、ディンブラのいずれに致しましょうか? 」
「ディンブラで」
「畏まりました」
そう言って部屋を出ていく八角。
別に飲み物など不要であったが、雰囲気に負け、条件反射で出た名前である。
アールグレイは世界一有名なフレーバーティー。茶葉に人工的に香りをつけたもので、ベルガモット(柑橘類)のフレーバーがつけられる。
問われて、ダージリンはいかにもと思い、他は初耳であったが、最後を選んだ💧。
少しすると、八角が入って来た。
トレイから、ガラスの急須(紅茶ポット)と、上品な柄入りのティーカップ等を置く。
自分の分も注ぎ、差し出して席に着いた。
ディンブラは、スリランカ中部ヌワラエリヤ県ディンブラ地方で生産される紅茶の総称で、爽快な渋みと芳醇な香りが特徴的である。
一口飲み、確かに普段飲む物とは違うと思った。
そこで本題を切り出すKANNA。
「高嶺 雅。母志穂が処分した第一子のDNAと、草吹甲斐が開発した人工細胞を持つインターセクシュアル(性腺分化疾患:両性具有者)」
「これはこれは、良くご存知で」
「出生した病院での異常な事件と、この邸宅での事件も全て、雅の起こしたものでしょう」
「今更隠しても仕方ない。当時は信じられませんでした。あんな赤子に、あれほど残酷なことができるとは…」
「赤子故に、理性はないとも考えられる」
「いや、雅様は全て分かった上で、故意に人の欲望と、残忍な潜在意識を利用したのです」
「それで…今はどこに?」
「それが…アメリカの田舎町に別宅を構え、志穂様と付人で移住して半年。付人はとうに逃げ出し、志穂様は遺体で発見されました」
「誰かに拐われた…新龍会か?」
首を横に降り、内ポケットから封筒を取り出す。
中には、何枚かの写真が入っていた。
「私が遺品として持ち帰ったものです」
「まさか、これが雅?」
「はい。間違いないかと。警察は犯人として指名手配しておりますが、新しいものでも、志穂様の発見から一月前。見つかるはずはありますまい」
日付順に急速に成長し、最後の1枚では、中高生と思えるにまでなっていた。
「草吹甲斐の年齢まで、一気に成長したと言うわけか…それならば、今は27歳になる。雅は甲斐ののこした策略か?」
「恐らく、この家には戻ることはないでしょう。しかし…私にはもう日本にいる気がします」
(雅の目的は何か? 今の力はどの程度か?)
KANNAのそれを、読み計った八角。
「何をしようとしているのかは、私には分かりません。KANNA様、貴女も普通の人ではない」
テーブルに肘を着いた位置を見て、言い切った。
「気付きましたか。私は一度死に、堕天使ルシファーの化身として復活した者。その力は、影さえ吸い込む」
KANNAには、影がなかった。
会って一礼した時に、足元を見て気付いた八角。
「どうか、雅様を止めてください。貴女やラブ様なら、可能かも知れません」
「もとより、そのつもりでここに来た。この写真と、雅の髪の毛か、何か使っていた物が欲しい」
「DNA鑑定の為に持ち帰った毛髪があります。写真はお持ち帰りください」
そう言って、ポケットから毛髪の入ったビニール袋を出して渡す。
(この男…最初から)
「DNA鑑定の結果、間違いなく雅様のものです」
「助かる。では、紅茶をご馳走様。失礼します」
玄関まで付いて来て、深く頭を下げて見送る。
「どうか、ご無事で」
「あっ…💦」
と、振り返るKANNA。
「タクシーをお願いします」
ニコリと笑む八角。
「もう呼んであります」
門が開くと、タクシーが待っていた。
「あ…ありがとうございます」
社長の高嶺 真純は、ほとんど戻らないはず。
執事には、勿体無いと思うKANNAであった。
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