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雅 MIYABI
東京の1日は、その名に始まった。
新聞やテレビは1日中報じ続け、人々の興味心と不安感を煽り立てている。
交通機関は、東京を逃げ出す人で混み合い、また逆方向は、東京へ好奇心を集めて混み合った。
都内の消防、警察、自衛隊は、夕方にはその機能を取り戻し、来るべき戦いに備え始める。
政府各省庁も時と共に、それなりの指導者が指揮を取り、かつてない程の協力体制を持ち始めた。
事実上の国を統べる者、眉村首相は、敢えて大臣の任命は控え、内閣府の全ての責務を負った。
そばに控えるのは、首相アドバイザーで、議会のオブザーバーである、トーイ・ラブ。
警察機関のトップである、花山警視総監。
自衛隊統合幕僚長の、松坂総本部長。
この4名で、雅と向かい合う。
ラブは止めたが、東京を統べる者として、断固として、雅から逃げることはしなかった。
お台場のTERRAと警視庁対策本部ビル前。
428号線は通行止めとし、周辺のビルや商業施設からは全員を避難させた。
TERRAもT2とティーク以外全員を退出させ、凛はヘリで上空待機している。
警視庁も刑事課のメンバー以外全員を避難させた。
武器は全て金庫に入れ、見守るしかできないことを悔しく思いながらも、ラブ達の足手纏いになるわけにはいかない。
唯一紗夜は、ラブと共に戦うことを望み、ラブもそれを受け入れたのである。
前代未聞の事件の結末。
不可思議な力を持つ、雅との戦い。
日本中が、世界中が注目する中。
間も無く、夜を迎えようとしていた。
「ラブさん、いつの時代から、この国は間違ってしまったのでしょうか?」
閑散とした会議室で、眉村が呟いた。
「戦を間違いと言うならば、人間の歴史は常に間違いだらけです。それは、国レベルでもなく、世界中の多くの人々の日常にも起きていること。それが、この地球の人です。でも決して、それが全て悪いことではなく、それがあってこそ、未来があるものと信じています」
黙ってうなずく眉村。
それ以上は問わない。
「少し外します。本当の戦いは、ここではない」
廊下には、ラブが見つけた救世主達がいた。
黙ってエレベーターに乗り、屋上まで上がる。
「比嘉 晋也さん。今回視て貰うものは、想像を絶するほど悲しく、無惨な過去の出来事。でも、絶対に目を逸らさず、彼女に伝えてください」
思い切り抱きしめるラブ。
(ごめんね…力を貸して)
(大丈夫。僕たちに任せて!)
笑顔を見せて、ヘリへと乗り込む比嘉。
「新垣 多香子さん。あなたが視る未来では、もしかしたら私も死んでいるかも知れない。でも、絶対に目を逸らさず、彼女に伝えてください」
思い切り抱きしめるラブ。
(ごめんね…私を助けて)
(大丈夫。絶対にラブを死なせたりしない!)
ニコリとして、ヘリへと走る荒垣。
そして、見つめ合う2人。
「佐久本 美優さん。あの2人は頑張ってくれるはず。例え苦しんでいて、死にそうでも、もし意識がなくても、2人が視た過去と未来を受け取ってください。そして、あなたが正しいと思う方へ導いて」
「この前話を聞いて、3人で決心したから。昨日の雅って奴のふざけた文字を見て、たくさんの爆破事件をやったのがソイツだと知った。私達は、絶対に許さない❗️ だからラブ、こっちは任せて。私の龍神は、今にも飛び出しそうなくらい怒ってるんだから」
思い切り抱きしめるラブ。
美優もラブを抱き締めた。
「例え理不尽で悲しい死だったとしても、関係のない人を殺すのは間違ってる。それを利用しようとする雅は、死んでも許さない❗️」
耳元で伝え、腕を解く。
目を見てうなずき、2人のもとへ走って行った。
「アイ、後はお願い」
「承知しました、ラブ様」
上昇し、武蔵村山市へ向かうヘリ。
涙を堪え、それを見送るラブであった。
美優が奏でる三線の音色が、聴こえた気がした。
過去を視ることができる比嘉。
その未来を視ることができる新垣。
2人が視たものを変えることができる龍神の化身、佐久本。
沖縄から来た3人は、チムグクルというバンドで、世界中に癒しのメロディを届けている。
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