【8】真の支配者 〜Final Battle〜

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〜武蔵村山市〜 遺骨の回収作業は終わった。 1箇所にまとめられた骨の山。 TERRAから到着した3人。 余りの量に驚きはしたものの、沖縄の歴史を3人には、特別な遺産ではない。 雅が現れたとの連絡に、まずはその状況を目に焼き付け、それぞれのやるべきことにとり掛かる。 TERRAから運ばせた、専用のシートにもたれた。 車には、電源と各種の監視装置が積まれている。 「まずは比嘉さん、大変だろうけど、この子達に起きた真実をシッカリ!」 風花がバイタルを確認し、ヘルメットを被せた。 あらゆる計測と、能力増幅の機能が備えてある。 「新垣さん、比嘉さんとリンクして、この歴史が引き起こす未来を。頑張って!」 「大丈夫です。後は美優に託します」 2人のスタンバイが完了した。 早速、比嘉の脳波と脈拍が大きく変化し始める。 苦痛や苦しみ、恐怖、怒りを表す数値が異常に跳ね上がり、苦しそうにうめく。 その30秒後。 新垣も比嘉と同様な状態になり、歯を食い縛って耐えているのが分かる。 風花とアイが、バイタルの状況に合わせて、沈静化する薬を慎重に投与して行く。 (頑張ってみんな) 幾度か実施し、かなり改善はしてきたが、当人にかかる肉体的、精神的負荷は、想像を絶する。 この時比嘉は… 燃え盛る倒壊した家。 無惨に転がっている無数の死体。 悲鳴と呻き声を、踏みつけて行く騎馬隊。 その真っ只中にいた。 瞬きをし、次に現れたのは、更に異様な情景。 広く掘られた円形の凹み。 その中を埋め尽くす子供や赤子。 助けを乞う親は死んで、もういない。 恐怖に泣き叫ぶ子供達。 周りの兵を睨みつける目。 赤子を必死であやす子。 柄杓(ひしゃく)(すく)った黒い液体を振りかける兵。 そこへ、大将らしき者の合図で、火が放たれた。 油を被った子供達が、(もが)き、泣き叫びながら、黒煙を上げる炎🔥に包まれて行く。 (酷すぎる…) しかし、目を逸らさずに、その様を心に刻む。 燃えて行く子供達の、悲哀と憎しみの目を見た。 その頃新垣は… 静まり返った東京の街にいた。 人も車もまばらな新宿。 風に剥がれ落ちそうな貼り紙。 動くことをやめた電車。 テナントの消えたビル群。 ふと目についた壁紙。 そこに記された、救世主への人々の祈り。 別の紙には、ラブを悼み、死を嘆く言葉達。 涙が溢れ、息が詰まり、目を閉じる。 次に目を開くと、金色に煌めくビル群。 余りにも違う2つの東京。 それを隔てる高い壁。 人々が崇め、従う人物の輪郭が見え始める。 贅の限りを散りばめた床や壁。 その玉座に登り着いた支配者。 ゆっくりとその姿が振り向く。 直視を許される者はいない。 美しい… 意に反して、思いもせずそう感じた。 その顔がぼんやりと見えてくる。 (そ…そんな⁉️) 心拍、血圧、呼吸、体温。 全てのバイタルが、異常値の域を超える。 「マズいわ❗️」 適正な処置に思考を巡らす風花。 その肩に、そっと手をやる莉里。 「私に任せて、少し休め」 TERRA外で初めての試み。 十分な環境と機器は揃っていない。 万が一を考え、信頼できる莉里を呼んでいた。 その冷静な声と表情に、落ち着きを取り戻す。 「ありがとう莉里。お願いします」 素直に代われるのは、莉里だからであった。 直ぐに比嘉の覚醒に取り掛かる風花。 数値は感覚を鈍らせ、焦りを生む。 だから莉里は見ない。 新垣に触れ、その手で、目で、耳で感じる。 感じるがままに、適量の薬品や酸素を(ほどこ)す。 それを見ていた美優。 シートには乗らず2人の間に立ち、両手を広げた。 「後は任せたわよ美優!」 ヘリに飛び乗り、TERRAを目指すKANNA。 周りを囲んでいた結界が消える。 怨霊が気付いて来る前に、浄化する必要があった。 目を閉じ、沖縄に伝わる浄文を唱える美優。 暗雲現れ、蜷局(とぐろ)を巻き始める。 急に風が乱れ吹き、大粒の雨が降り出した。 しかし…広げた手の先。 比嘉と新垣の周りは、目に見えないものに守られ、雨風には(さら)されてはいない。 降り(しき)る雨が、積み上げた骨の泥を洗い流す。 それを、天を這う様に走る稲妻⚡️が輝かせた。 比嘉の過去と新垣の未来。 この時美優は、その間を埋める時空間に居た。 2人分の感情を全て受け止める。 並大抵の精神力ではない。 先祖代々引き継がれた、龍神の末裔。 生を得た時から、(つちか)われた力である。 嵐の龍神祭りの夜に、同時に生まれた3人。 その過酷な運命で、この国を禍いから守るが使命。 それを覚醒させたのが、ラブであった。 (もの凄い邪気…死が当たり前だった(沖縄)とは違う。理不尽過ぎる…無情な死) 今、その怨霊は強大な悪霊と化して、雅に居る。 果たして、それに勝ち得るのか? かつてない不安が、美優の心を締め付けていた。 (しかし…負けるわけにはいかない!) 負けることは、3人の死を伴う。 更には、新垣が未来が現実のものとなる。 (必ず…変えてみせる❗️) 小さな心に、熱い炎🔥が燃え上がった。 「風花! 美優の脳波とバイタルが❗️」 さすがの莉里も、2人は無理である。 「彼女はね…特別なの。必ず、大丈夫」 もういつもの風花に戻り、冷静に美優を見る。 (頼むわよ…美優) 激しさを増す稲妻⚡️。 徐々に、青白い光が美優を包み込んでいく。
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