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〜お台場〜
止むことのない雅の攻撃。
怒りが増し、激しさも増して行く。
近付くことが出来ず、再生を繰り返す美波。
今にも破られそうな結界。
「美波さん、下がって彼らを守って!」
ラブの指示に従い、襲い来る手を振り払う美波。
耐え凌ぐラブとT2、ティーク。
物理的な攻撃には無敵のバトルスーツも、悪霊を防ぐことは出来ない。
全ての攻撃は防げず、体中を切り裂かれ、抉られ、ボロボロの状態であった。
「クソッ…ラブ、俺たちに任せて下がれ。美波1人じゃ防ぎ切れねぇ」
「分かった、死なないでよ」
強烈なパワーはあれど、素手で戦う美波。
再生が追いついていない。
「さて、そろそろ本気で行くかT2」
「了〜解!」
ティークが蒼く光り、長剣のスピードが上がる。
T2が赤く光り、パワーの範囲が広がった。
本来なら、力は既に限界に達している。
「フッ、無駄な悪足掻きを。なぜそうまでして、そんなに弱くて、欲に生きる者達を守る?」
理解できず、笑みを浮かべながら首を捻る。
「雅さん…あなたは分かっていない。でもそれも無理はないでしょう。歪んだ欲望と実験で造られ、生まれる前に殺された姉の恨みを受け継いだ。それじゃ、分かるはずはないよね…」
ラブの優しい感情が、違和感として伝わる。
「雅さん、この世の中は、そんなに悪くはない。誰にも欲や悪はあるもの。でも優しさや、人を思いやり助け合う、善の心もたくさんあるんです。ここにいる代表者は、その想いが強い人達。悪霊の力に惑わされてはいけない」
少し違和感について考える雅。
しかし、到底理解できるはずはなかった。
まだ生まれて1年足らずの赤子である。
「無理だね。優しさとは何だ? 他人に何を思う? どう考えても、お前たちを理解することは出来ない。ラブ…お前は他とは違う気はする。しかし、我の邪魔をする者は滅殺するのみ」
雅の頭上で暗黒の瘴気が塊りを成していく。
その中で、無数の怨霊が蠢き、唸り声を上げる。
(来る!…耐えられるか…)
これまでとは桁違いに強い邪気。
T2とティークが下がり、ラブの盾となる。
「死ねェ‼️」
燃える様な強烈な怨魂。
それが真正面から襲いかかった。
(ここまでか…後は美優に、託す)
今まで無敵の存在であったラブ。
それが、初めて死を…覚悟した。
どんな苦境にも、強大な敵にも負けなかったラブ。
しかし、実体のない相手に、なす術がない。
(ごめん…皆んな)
その囁きは、周りの全員の心に響いた。
「そんな…ラブが負けるわけないわ❗️」
窓に両手を突き、叫ぶ咲。
全員が拳を握り締め、歯を噛み締める。
その時…
「や・め・ろ❗️」
突然のその声に、攻撃が止まる。
「何っ⁉️」
雅が睨むその先に、紗夜と…あの少女がいた。
雅が現れてから、ズキズキと痛んだ右の掌。
幼児虐待の恐怖と怨念が、哀しみの悪魔を生んだ。
ソレはまだ、紗夜の中に留まっていた。
小盛山の子供達の怨霊を、自ら引き寄せて吸収し、紗夜の中に抑え込むことで力を増した。
「お前は…何なんだ?」
浮かんだ怨魂の勢いが弱まって行く。
雅のその問いに、紗夜と少女が同時に答えた。
「お・ま・え……わ・た・し・から・子供・達を・奪った・つ・も・り・か?」
「何っ⁉️」
強い…その圧倒的な脅威を感じた雅。
ラブによって紗夜から斬り離され、奪いに来た雅に吸収されたはずの怨霊。
その雅に、紗夜が告げる。
「あれは、あなたを救うため。今あの怨魂の中には、あなたの姉の怨念も居る。それさえなければ…雅さん、あなたは普通の人間として生きられるはず」
「我を…救うだと? まさかそんなことが…」
「で・き・る・❗️」
少女が目を見開き、手を差し出した。
少女の伸びた両手が、半分程に小さくなった怨魂を挟み、自分の方へ引き寄せて行く。
「やめろォォー❗️」
必死の形相で叫ぶ雅。
その瞬間に、不意に届いた思念。
(ダメ! 紗夜さん。そうはさせない❗️)
(美優⁉️)
紗夜とラブには、美優の声が聴こえた。
そして、雷雲から現れる龍神の姿を…視た。
〜武蔵村山市・小盛山跡〜
正にその時。
轟き走る稲妻⚡️の中から、金色の龍が現れた。
「龍⁉️」
驚く風花と莉里。
美優の体が光を帯びて浮き上がる。
そして天を刺した指先を、白骨の山に振り翳した。
「古の悲しき魂達よ、天へ昇り永久の眠りにつけっ‼️」
「ビシッ⚡️シャァー⚡️❗️」
龍が吐き出した光が、白骨を包み込む。
すると…
その光の中から、次々と現れる子供達。
薄く透けてはいるが、赤子を抱いた者もいる。
龍神がそれを掠めて、一気天へと昇る。
その跡に、天まで続く一本の光の帯。
それに吸い込まれる様に、天へと消える子供達。
「魂の…浄化」莉里が呟く。
「美優…やったわね」
光が天に吸い込まれて消える。
その後には、骨のカケラさえ無くなっていた。
一方のラブ達。
必死に手繰り寄せる少女。
その挟んだ手の間で、怨魂が薄れていく。
「行くな❗️」叫ぶ雅。
「クッ…」悔しがる少女。
誰もが、その消え行く魂を見つめていた。
何も無くなった、小さな掌の空間を。
怒りに震える少女には、誰も気付かずに…
その時。
ラブは雅の異変が気になった。
よろよろと、力無く後ずさる雅。
もう何の脅威も感じない。
(まさか⁉️)
怪我も忘れて駆け寄るラブ。
倒れて行く雅を、滑り込んで…抱き抱えた。
ラブの腕の中で、みるみる小さくなっていく。
「そんな…ありえないわ」
3階の刑事課から見ていた咲。
信じられない結末。
その場にいた全ての者が、暫し声を無くす。
雅が着ていた服の中。
ラブに抱かれた、1才足らずの雅がいた。
ホッ…と、優しく微笑むラブ。
それに、無邪気な笑い声で応える男の子。
「終わったな、紗夜」
いつの間にか出てきていた富士本。
もうあの少女の姿はない。
「はい。終わりました」
まだ疼く掌を、ポケットに隠す紗夜。
それを目の片隅で知るラブ。
(あの時美優は…一体何を変えたの?)
後から3人に尋ねても、何も覚えてはいなかった。
新垣が見た未来に、何があったのか?
美優が紗夜に叫んだ理由は?
もう今は、誰も知ることはできない。
いつか訪れる、その時まで。
「あれ? ここは…」
「柴ちゃん、何でこんなところに?」
正気に戻った柴咲とカメラマン。
転がったカメラに手を伸ばした瞬間。
「うわぁあ💦」
驚いて飛び退る彼。
戻ったKANNAが、魔術でカメラを燃やした。
真実は、見た者の心の中に、隠されたのである。
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