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〜千代田区霞ヶ関〜
警察、消防、報道機関が集まり騒然とした現場。
火事は収まったが、救助活動が難航している。
「しかし何回目だ警視庁。爆発は先日のものとは違い、こりゃあセムテックスを使用したに違いねぇ」
「それって豊川さん…前の連続爆破事件と同じってことか? まだ終わってなかったとか…」
刑事課の上、4階にある鑑識部と科捜研部を束ねる豊川 勝政に淳一が問う。
「犯人は違っても、調達元は同じかもな」
「セムテックスは、商業用や軍事用にも汎用されている、いわゆるプラスチック爆弾。ただ…極めて探知困難で、入手は容易。たった250gで飛行機を爆破できる厄介な代物です」
「真田さん…だったかな? よく知ってるじゃねぇか。今や「テロリストのC-4」とも呼ばれていやがる。ただな、一連の爆弾は少し手が込んでてな、破壊力に加えて、爆炎の強さが半端ねぇ」
そう告げる豊川の表情に、真田の超感覚的状況認識能力が働く。
「豊川さん、何だとお考えで?」
その問いに驚き、真田と目を合わす。
「あんた…紗夜と同じ能力が?」
「えっ?…いやいや、私に読心なんて無理です。でも…勘には自信があります」
ニコリと笑顔を見せる真田。
しかしその目は笑ってはいない。
「なるほど、花山警視総監が推すだけのことはあるな。この爆弾には、おそらくかなり可燃性の高い燃料が使用されているはずだ」
「ガソリンの様な液体? それとも他の火薬類?」
「ガソリンにしては黒煙が少なすぎる。もっと純度の高い灯油類。つまり、ジェット機などの航空機に使用される燃料だ」
「さすが、あの咲さんも推すだけのことはありますね、豊川さん。それなら入手経路が絞れます」
「咲が俺を? 気持ち悪ィな」
と言いつつも、嬉し気な照れ笑い。
「気持ち悪いって何よ💢」
「聞いてたのか、咲さん💦」
会話は、通信機を付けた全員に聞こえていた。
「まぁいいけど。さすがね、昴、可能性のある入手経路を辿って、久宝と真田はその裏を取る様に。絶対今回は元を断つわよ!」
「了解!」
「淳、そっちの方はどう?」
「野次馬達は一通り撮影完了。特に怪し気な者は見当たらねぇが、昴に送るから分析よろしく」
そう言って、救助活動に取りかかる淳一。
「ご苦労さん、あと何人くらいだ?」
すれ違う若い消防隊員に尋ねた。
(おい、無視かよ💧)
「全く最近の若い奴は。まぁこの状況じゃ、答えられないのも無理はないか」
庁舎の3階迄が幅20mほど破壊され、焼け焦げた異様な匂いが立ち込めている。
「宮本さん! 来てくれてたんですか。ちょっと手を貸してください」
「おぉ松田、無事でなにより。よっしゃ、お前はそこの鉄棒を差し込んで、こじ上げろ。俺が彼を引っ張り出す」
大きな瓦礫が、中年の男性の上に被さっていた。
意識があるか確かめる淳一。
「聞こえますか? 今助け出しますが、体のどこかに、何か刺さってはいませんか?」
少し間をおいて、うなずく男性。
「大丈夫…です。助けてください」
「俺が引っ張り出すから、少し我慢してくれよ」
両脇に腕を回し、後輩の松田に合図する。
「ふんっ…うぉぉお!」
「うりゃ!」「ぐぉっ…」
僅かに浮き上がった間に、一気に引き出した。
幸いにも刺さった物はなく、手足もあった。
「救護班、こっちだ! もう大丈夫だからな」
「ありがとう…ございます」
「よし松田ぁ、次行くぜ」
「はい。久しぶりっすね。しっかし、さっきの消防隊員は、振り向きもしなかったっすよ」
あの若者だと思った。
「現場は初めてなんじゃねぇか。酷ぇからな」
崩れそうな建屋に入ろうとした時、悲鳴がした。
「キャー❗️」
明らかに爆破事件への反応ではない。
「ここは任せた」
そう言って悲鳴が聞こえた方へ走る。
現場近くに停めてあった車。
その開いたドアのそばで、座り込んだ女性1人。
おそらくあの悲鳴の主であろう。
近くにいたのか、豊川が車を覗き込んでいる。
邪魔はしない様に、女性に話しかける淳一。
「この車はあんたのか?」
震えながらうなずく。
「誰か不審な奴を見かけなかったか? 走り去る奴とか? 何でもいい」
「い…いえ、誰も。車が大丈夫か見に来たら、車内灯が点いてて…開けたら男の人が!」
「分かった分かった。無理かも知れねぇが、落ち着いてくれ。おい君、彼女を頼む」
近くに来た警官に任せて、車内を覗く。
「見事なもんだ、背後から骨の隙間を刺して、心臓を一突き。この肉付きなら、背中からの出血はほとんどねぇ」
「この靴は…」
その騒ぎを聞き付け、現場の消防隊を指揮していた辻村が来た。
「隊長の辻村だが、救護班は必要か?」
「いや、死後1時間ってとこだ」
「辻村隊長さん、ちょっと訊くが、あんたの隊に、西脇って若い奴いるか?」
淳一が尋ねた。
「はぁ? あぁ…西脇はいるが、もう若くはない。おい、まさかその遺体は⁉️」
淳一が近づくのを止め、見えている靴を指差す。
消防隊員の靴であると、直ぐに分かった。
「そ…そんなバカな。真っ先に駆けつけたのは、西脇のチームだったのに、何で…」
「あんのヤロウ! 豊川さん、ここは任せたぜ」
「おぅ、後でな」
すれ違い様に淳一は、消防服の腕に付いていた名札を見ていた。
「咲さん、爆破現場で消防隊員の刺殺死体発見。犯人は消防服を奪って、ここでこの騒ぎを見ていた❗️。年齢は20《はたち》前半、身長170センチぐらいで体格は良いがデブじゃねぇ。約20分前には奪った消防服を着て、現場から出口へ。クソッ❗️昴、監視カメラで探してくれ!」
「はい、分かりました」
周りに集まっている群衆。
とても、探し出すのは不可能に思えた。
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