【2】混沌の捜査線

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〜千代田区霞ヶ関〜 警察、消防、報道機関が集まり騒然とした現場。 火事は収まったが、救助活動が難航している。 「しかし何回目だ警視庁(ここ)。爆発は先日のものとは違い、こりゃあセムテックスを使用したに違いねぇ」 「それって豊川さん…前の連続爆破事件と同じってことか? まだ終わってなかったとか…」 刑事課の上、4階にある鑑識部と科捜研部を束ねる豊川(とよかわ) 勝政(かつまさ)に淳一が問う。 「犯人は違っても、調達元は同じかもな」 「セムテックスは、商業用や軍事用にも汎用されている、いわゆるプラスチック爆弾。ただ…極めて探知困難で、入手は容易。たった250gで飛行機を爆破できる厄介な代物です」 「真田さん…だったかな? よく知ってるじゃねぇか。今や「テロリストのC-4」とも呼ばれていやがる。ただな、一連の爆弾は少し手が込んでてな、破壊力に加えて、爆炎の強さが半端ねぇ」 そう告げる豊川の表情に、真田の超感覚的状況認識能力が働く。 「豊川さん、何だとお考えで?」 その問いに驚き、真田と目を合わす。 「あんた…紗夜と同じ能力が?」 「えっ?…いやいや、私に読心なんて無理です。でも…勘には自信があります」 ニコリと笑顔を見せる真田。 しかしその目は笑ってはいない。 「なるほど、花山警視総監が推すだけのことはあるな。この爆弾には、おそらくかなり可燃性の高い燃料が使用されているはずだ」 「ガソリンの様な液体? それとも他の火薬類?」 「ガソリンにしては黒煙が少なすぎる。もっと純度の高い灯油類。つまり、ジェット機などの航空機に使用される燃料だ」 「さすが、あの咲さんも推すだけのことはありますね、豊川さん。それなら入手経路が絞れます」 「咲が俺を? 気持ち悪ィな」 と言いつつも、嬉し気な照れ笑い。 「気持ち悪いって何よ💢」 「聞いてたのか、咲さん💦」 会話は、通信機を付けた全員に聞こえていた。 「まぁいいけど。さすがね、昴、可能性のある入手経路を辿って、久宝と真田はその裏を取る様に。絶対今回は元を断つわよ!」 「了解!」 「淳、そっちの方はどう?」 「野次馬達は一通り撮影完了。特に怪し気な者は見当たらねぇが、昴に送るから分析よろしく」 そう言って、救助活動に取りかかる淳一。 「ご苦労さん、あと何人くらいだ?」 すれ違う若い消防隊員に尋ねた。 (おい、無視かよ💧) 「全く最近の若い奴は。まぁこの状況じゃ、答えられないのも無理はないか」 庁舎の3階迄が幅20mほど破壊され、焼け焦げた異様な匂いが立ち込めている。 「宮本さん! 来てくれてたんですか。ちょっと手を貸してください」 「おぉ松田、無事でなにより。よっしゃ、お前はそこの鉄棒を差し込んで、こじ上げろ。俺が彼を引っ張り出す」 大きな瓦礫が、中年の男性の上に被さっていた。 意識があるか確かめる淳一。 「聞こえますか? 今助け出しますが、体のどこかに、何か刺さってはいませんか?」 少し間をおいて、うなずく男性。 「大丈夫…です。助けてください」 「俺が引っ張り出すから、少し我慢してくれよ」 両脇に腕を回し、後輩の松田に合図する。 「ふんっ…うぉぉお!」 「うりゃ!」「ぐぉっ…」 僅かに浮き上がった間に、一気に引き出した。 幸いにも刺さった物はなく、手足もあった。 「救護班、こっちだ! もう大丈夫だからな」 「ありがとう…ございます」 「よし松田ぁ、次行くぜ」 「はい。久しぶりっすね。しっかし、さっきの消防隊員は、振り向きもしなかったっすよ」 あの若者だと思った。 「現場は初めてなんじゃねぇか。酷ぇからな」 崩れそうな建屋に入ろうとした時、悲鳴がした。 「キャー❗️」 明らかに爆破事件への反応ではない。 「ここは任せた」 そう言って悲鳴が聞こえた方へ走る。 現場近くに停めてあった車。 その開いたドアのそばで、座り込んだ女性1人。 おそらくあの悲鳴の主であろう。 近くにいたのか、豊川が車を覗き込んでいる。 邪魔はしない様に、女性に話しかける淳一。 「この車はあんたのか?」 震えながらうなずく。 「誰か不審な奴を見かけなかったか? 走り去る奴とか? 何でもいい」 「い…いえ、誰も。車が大丈夫か見に来たら、車内灯が点いてて…開けたら男の人が!」 「分かった分かった。無理かも知れねぇが、落ち着いてくれ。おい君、彼女を頼む」 近くに来た警官に任せて、車内を覗く。 「見事なもんだ、背後から骨の隙間を刺して、心臓を一突き。この肉付きなら、背中からの出血はほとんどねぇ」 「この靴は…」 その騒ぎを聞き付け、現場の消防隊を指揮していた辻村(つじむら)が来た。 「隊長の辻村だが、救護班は必要か?」 「いや、死後1時間ってとこだ」 「辻村隊長さん、ちょっと訊くが、あんたの隊に、西脇って若い奴いるか?」 淳一が尋ねた。 「はぁ? あぁ…西脇はいるが、もう若くはない。おい、まさかその遺体は⁉️」 淳一が近づくのを止め、見えている靴を指差す。 消防隊員の靴であると、直ぐに分かった。 「そ…そんなバカな。真っ先に駆けつけたのは、西脇のチームだったのに、何で…」 「あんのヤロウ! 豊川さん、ここは任せたぜ」 「おぅ、後でな」 すれ違い様に淳一は、消防服の腕に付いていた名札を見ていた。 「咲さん、爆破現場で消防隊員の刺殺死体発見。犯人は消防服を奪って、ここでこの騒ぎを見ていた❗️。年齢は20《はたち》前半、身長170センチぐらいで体格は良いがデブじゃねぇ。約20分前には奪った消防服を着て、現場から出口へ。クソッ❗️昴、監視カメラで探してくれ!」 「はい、分かりました」 周りに集まっている群衆。 とても、探し出すのは不可能に思えた。
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