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〜東京都府中市〜
北府中駅から徒歩10分。
敷地面積26万2058平方メートル、3000人の受刑者を収容可能な日本最大の府中刑務所。
しかし、施設の老朽化や、刑務官の人員・人件費削減などで、現在の受刑者は約1800人と減った。
その内約25%を65歳以上の高齢者が占め、今や刑務所という名の、老人介護施設とも言われる。
警視庁は、老人とは言え、重大犯罪者の介護は危険と判断し、最新設備を整えた専用の監獄を建造したのである。
物々しい警戒態勢の中、移送車両が到着した。
建屋の裏口のドアが軋みながら開く。
「移送準備完了。問題ありません」
完全防護仕様の新型車両から、装備の訓練を叩き込まれた特別刑務官、舟越 蓮が告げる。
「そう緊張するな蓮、いつも通りでいいんだ」
ハンドルを舟越に預け、警護する津川 光彦。
舟越の教官でもあった。
「教官、自分はいつも緊張感持って、訓練や任務を行っていますので」
「それが普通だってことか。全く…もの柔らかだった舟越警部とは大違いだな。まっ、優秀なところは変わらないがな」
「父は、それが仇となって、殉職しました。犯罪者に気遣いは無用です」
ニヤリとする津川。
ブザーが鳴り、裏口から囚人を連れた刑務官たちが次々と出て来た。
「拘束衣に鎖。映画の見過ぎじゃねぇか?」
車両は、12人乗りの小型バス。
席間は広く、防弾防炎の車体に、自動装銃を各方向に装備した、走る要塞である。
刑務官が2人、後部の隔離シートで監視に着く。
万一の為に銃は持たず、装備された遠隔操作の機関銃が囚人を狙っている。
「全員乗車完了。これが、囚人のリストです」
「そんなもの見たくもない。よし、行くか!」
「お気を付けて」
敬礼して見送る刑務官達。
前後に護衛のパトカーと白バイ。
ゆっくりとゲートが開き、外へ出た。
「しかし、なぜ教官が?」
「仕方ないだろ、予定の奴が時間に来なかったんだからよ。それから…名前で呼べ。もうお前の教官ではない」
「分かりました」
暫くは無言で走る2人。
任務に集中している舟越が、通信地点で無線に手を伸ばす。
その手を止めた津川。
国道20号線、中央自動車道調布IC手前。
「無線は傍受される。それから、高速に乗れ」
「そんな、予定と違います❗️」
「バカか、予定は漏れていたら終わりだ。そこを左だ、高速なら時間も予定からかなり早くなる」
護送の経験などない舟越。
確かに、津川の機転にも一理あると理解した。
積荷は、普通の犯罪者達ではない。
襲撃の可能性は高く、情報は漏れるものである。
先導車と別れ、高速に乗った。
当然無線と携帯が鳴る。
もうUTCレーンで、減速したところであった。
「カチッ」「ん?」
後部シートの彼が、天井にスイッチ音を聞いた。
その途端。
「ドドン💥ドドン💥」
2人の頭上が爆発し、後部ドア毎吹き飛んだ。
思わず急ブレーキを踏む舟越。
「バカな! 津川さん、見て来ます」
拳銃を抜き、素早く降りて後ろへ走る。
その目の片隅に、隣の車から来る人影が見えた。
(しまった…)
「バンバン💥」
振り向く舟越に放たれる銃弾。
咄嗟に転がって避ける。
「何だお前ら⁉️」
「津川さん❗️」
「バンバン💥」
銃声で津川の声が消えた。
ドアが閉まり、走り出す移送車。
並走して、両サイドのワゴン車も走り出した。
後部ドアを失った車内には爆煙が充満し、中の様子は全く見えなかった。
「クソッ!」
慌ててポケットを探る舟越。
(クッ…さっき車に)
携帯に出ようと、取り出した瞬間の爆発。
携帯を手から放し、銃を抜いた。
立ち上がろうと地についたつもりの手が、グチャリとした感触に埋まる。
「うわぁあ!」
思わず声を出してそのまま後ずさる。
刑務官だったと思われるもの。
その一部が、血溜まりを作っていた。
後ろにいたパトカーは、予想外の急な車線変更に遅れ、高速に乗れず。
白バイは爆発の直撃で吹っ飛び、転がっていた。
ドライバーは見当たらない。
呆然とする舟越へ、人々が集まって来る。
が…無惨な遺体を見て目を背け、吐く者もいた。
監視カメラで見ていた、道路管理センターが、警察へ通報したのであった。
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