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【0】予兆
〜千代田区永田町〜
敷地面積103,007 m²、延床面積53,464 m²。
高さは両翼20.91m、中央塔65.45m。
1936年(昭和11年)11月に帝国議会の新議事堂として建設された国会議事堂。
建物は中央塔を中心に左右対称で、向かって左側に衆議院、右側に参議院が配置されている。
その周辺を取り巻く、たくさんの警察車両。
狙撃部隊も配備され、緊迫感に包まれている。
「犯人の人数は未だ不明。人質は総理を含めて116名。国会中に襲撃された模様です」
警視庁凶悪犯対策本部、刑事課の神崎 昴が、お台場の本部から、耳に付けた通信機に伝えた。
「前代未聞の人質篭城事件ね。紗夜と桐谷は、カメラの死角からできるだけ近付いて、中の様子を探ってみて」
「了解」
刑事課長の鳳来 咲が、心理捜査官の宮本 紗夜と、元CIAエージェントの桐谷 美月に指示を出す。
(人質の数が多過ぎて、思念が読み取れない…)
紗夜には、離れていても人の心を読む能力があり、その中に犯人を探していた。
「犯人からメッセージの入電あり! 送ります」
各自のスマホにメッセージが届く。
『警察の皆さん、ご苦労様。議事堂内の爆弾は、予告した通り、あと少しで爆破します。そして今日、この東京は崩壊する。楽しもうじゃないか』
「こいつら愉快犯か?ふざけやがって」
「淳さん、そんなに簡単にできるものではありません。綿密に計画した犯行と考えます」
紗夜の夫で、同じ刑事課の宮本 淳一に、冷静な真田 空羽が言葉を返す。
「しかし、どうやったら大量の爆弾を持ち込めるって言うのよ?」
「咲さん、ただのハッタリじゃねぇか?」
「もしかして…ですが、議員の中に協力者がいるとしたら? アメリカオレゴン州の議会で、前例があります」
もと機密警察の久宝 武史が告げる。
「手荷物検査と金属探知機は、全員通るはずよ」
(何か…変)
紗夜は、ごちゃごちゃの思念の中に、幾つかの特異なものを感じていた。
「人間…爆弾」
「おい紗夜、ここは中東やロシアじゃないんだぜ、まさかそれはねぇだろう」
思わず頭に浮かんだ言葉を、呟いた紗夜。
すかさず、夫の淳一がツッコミを入れる。
「爆弾ベスト…か。うまくやれば、入れますね」
真田がそう言った時。
新たなメッセージが届く。
『国会議事堂如きで、東京が終わるなんて甘いよね。直ぐに分かることだけど、もう少し警察の方々には、頑張ってもらいましょうか』
その意味を理解した咲。
「富士本さん、大至急都内の各省庁や主要な公共機関を調べてさせて下さい」
部長の富士本 恭介に進言した。
「分かった。しかし…もう時間が」
そう言いながらも、捜査の指示を始める富士本。
「敵の人数も装備も分からないじゃ、話にならないわね。やるっきゃないか!」
上着を脱ぎ、シャツにミニスカハイヒール。
銃をホルスターごと外し、拡声器を持つ咲。
「もう少し近くで、話をしようじゃない」
そう言って、正面玄関へと歩き出す。
予想外のことで、誰も止められなかった。
窓にマシンガンを構える影を見つけた桐谷。
「咲さん、危ない❗️」
咲より前に飛び出した。
「ガシャン!ガガガガガ💥」
「グァハ…」
「桐谷❗️」
叫ぶ咲の目の前で、桐谷の体を複数の銃弾が貫き、血飛沫が舞う。
「このヤロウ!」
久宝が桐谷へと走る。
「ガガガガガガ💥」
「グォ、クソッ!」
銃弾を浴びながらも、前へ進む久宝。
「ダーン💥」
別の方向からの一発が、その頭を撃ち抜いた。
その一撃で地に転がり、動かなくなる。
「桐谷さん、久宝さん!」
紗夜のいるすぐ前で、転がって動かない2人。
「撃つな❗️」
咲の声が、狙撃部隊の指を止めた。
「バカな奴らだ」
窓から覆面をした1人が姿を見せた。
爆発物らしき物を身に纏っている。
下手に撃てば、爆発する可能性があり、それを読んだ咲であった。
「キサマ…」
「どうした、腰の後ろに隠している銃で、撃ってみろ。さぁ撃て、鳳来咲!」
「チッ…全てお見通しか。クソッ…キサマら何がしたいんだ? 要求を言え! 一体何が望みだ!」
「望み…か。まだ分かってない様だな。これは全て、そこにいる、紗夜が望んだことだ❗️」
「な!…何っ?」
「そんな⁉️」
全員が紗夜に視線を移す。
「ソイツの体には魔物がいる。これは、ソレが望んだこと。我々は手を貸しただけだ!」
「どういうこと、紗夜❗️」
紗夜に宿るモノは、咲も富士本も知っている。
そしてソレが、復讐で何人も殺したことも。
紗夜を守りはしても、善なるモノとは思えない。
「紗夜、本当か!?」
知らぬ間に、咲の銃口が紗夜に向けられていた。
狙撃部隊もそれに応じ、全てが紗夜を狙う。
「違う!私はそんなこと…」
「もう誰も騙せないよ、紗夜。さぁ、一緒に終わらせましょう」
「違う!絶対に違う❗️」
『カチッ』
犯人がスイッチを押した。
「ドゥーン💥…ドドドッドドーン💥💥❗️」
議事堂が巨大な爆炎🔥となって粉砕され、その爆風と炎が、周囲の警察官たち全員を直撃した。
「イヤャァアアー‼️」
灼熱の炎の中で叫ぶ紗夜。
その自分の叫び声で目が覚めた。
「うわぁああ!」「…ドスン!」
隣で寝ていた淳一が驚き、ベッドから落ちた。
「ゆ…夢? 良かった…」
「良かった…じゃない! 痛タタ。全くもぅ」
「ごめんなさい淳、大丈夫?」
「大丈夫…って、紗夜。お前こそ、大丈夫か?」
見ると、青ざめた顔に、汗が光っていた。
こんな紗夜は、今まで見たことがない。
「うん…とりあえずシャワーを…」
弱々しい足取りで、バスルームへ向かう。
(一体あれは、何だったのか…)
余りにもリアルで恐ろしく、ただの夢とは違う感じが残り、まだ足が震えていた。
倒れた桐谷と久宝。
自分に向けられた咲の銃口。
まだ鮮明に思い出せた。
(私の中に居るモノは…)
傷跡だらけの右の掌が、ズキンと疼いた。
それをじっと見つめる紗夜であった。
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