坊っちゃまは大人

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1e3a4230-41da-4dd2-a0b5-ff6ace3ca939 わたくしは、ホワイトシェパードの「シルバー」と申します。 五歳のオス犬で、人間でいえば四十代の働き盛りでございます。 わたくしのご主人様は、「(さとる)」さまという八歳の男の子でございます。 でも、坊ちゃまは、体が弱く、生まれてからずっと車イスの生活でございます。 わたくしの散歩の時には、坊ちゃまのお母様が、車イスを押しながら一緒に散歩いたします。 しかし、この街は坂が多く、大変そうでございます。 ああ、わたくしが、人間ならば、いくらでも押して差し上げられるのに……。 坊っちゃまにはお父様がいらっしゃいません。 離婚というものをされました。 坊っちゃまには、妹さまがいらっしゃいます。 「みちる」さまとおっしゃいます。 まだ、三歳の幼い女の子でございます。 そんなある日、お母様がお出かけされている時、みちるさまが、二階の踊り場から落ちそうになりました。 それを庇おうとした坊ちゃまは、車イスから飛び出し、みちるさまをお助けになりました。 しかし、坊ちゃま自身が、二階から落ちてしまわれました! 「ああ、あぶない!」 わたくしは、思わず、その下に駆け寄りました。 すると、なんということか、わたくしは、人間の男性になっておりました。 そして、坊ちゃまを抱きとめいたしました。 坊ちゃまは、不思議そうに、わたくしの腕の中で、訊かれました。 「シルバーなの?」 「はい。そうでございます。坊ちゃま」 わたくしは、嬉しくて、そうお答えいたしました。 「これからは、わたくしが、坊ちゃまをお助けいたします」 すると、坊ちゃまは、驚いた様子もなく、にっこり微笑まれました。 「よろしくね」 それから、わたくしは、坊ちゃまのお世話をするようになりました。 お母様は、わたくしの存在にビックリされたようでしたが、坊ちゃまが上手に説明して下さいました。 坊ちゃまは、八歳ですが、大人なのです。 しかし、坊ちゃまのご病気は、どんどん悪くなり、寝たきりとなってしまわれました。 わたくしは、お世話を続けました。 でも……。 坊ちゃまは、九歳の誕生日を前に、天国へ旅立たれてしまいました。 わたくしは、涙が枯れるまで、泣きました。 そうして、ある日目覚めると、元のホワイトシェパードの戻っておりました。 坊ちゃま……。 わたくしのご主人様は、一生、あなた様でございます。 わたくしが、いつか、そちらへ行くまで、待っていてください。 それを楽しみに、これからは生きてまいりたいと思います。 おわり
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