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「鑑定自体はできます。ですが、どこまでのことが分かるかはやってみないと……。内容にご了承いただきましたらお申し込みいただき、半日ほどお時間がある時に鑑定を実施いたします」
「鑑定を、実施……ですか」
「料金や注意事項をお渡ししておきますので、ご検討ください。海外の物だと詳しいことが分からないかもしれませんから、それもご納得いただければ……」
耀は依頼主に朱色のバインダーを渡す。
そこに挟まれた書類タイトルは『思い出鑑定について』。依頼主はその説明を読み込んだ。
『・思い出鑑定には数時間程度のお時間をいただきます。
・鑑定をすると物に宿る思い出を見ることができます。
・思い出のこもった品物は、不思議な力を持つため適切な処置を行います。
・企業秘密の部分についてはお答えできません。
費用について 半日拘束料 1万円、思い出鑑定料 3千円』
「あの……物に宿る思い出を見ることができるというのは?」
「そのままの意味です。持ち主の念がこもった品物であれば、その念をお見せします。海外の品の場合、それが外国語になってしまいまして……」
耀は困ったように苦笑いした。外国人の思い出を見せたところで、言葉が分からないと内容が理解できない。
「私はラテン語も分かりますし、ギリシア語もできます。英語のほかにポルトガル語とスペイン語とフランス語、ペルシア語は日常会話程度ですが、お役に立てませんか?」
「えっ……?」
それを聞いた耀が目を丸くする。
「あー……そうか、そうかもしれません……?」
一度納得しかけたが腕を組んで目を瞑り、「うーん」と眉間に皺を寄せていた。
「この金額で良いのでしたら、思い出鑑定というのを早速お願いしたいのですが」
「ああ、そうですよね。店までお越しいただく方が大変ですよね」
耀は目を開けると依頼主の住所を思い出してうなずき、「でもなあ」と再度葛藤する。「僕が鑑定したことにならないような気が……」
ただ思い出を見せるのではなく、念の種類を見分け、場合によっては悪い念を祓うところまでを行うのが耀の仕事だった。
「では、もし私が通訳出来たら鑑定が成り立つという条件にすれば、ご納得いただけますか?」
依頼主はそこで初めて『北国大学 人文科学博士 佐久昇二』という名刺を差し出した。
耀はそれを受け取ると、「ああ、こちら分野の方でしたか」と急に冷静になり自身の名刺を出す。
『古物商・思い出鑑定士 紅柄耀』
25歳の耀は、普段から専門家を相手に仕事をしている。相手が研究職であれば話は簡単だと結論を出した。
「そういうことでしたら、やってみてから考えましょうか——」
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