思い出鑑定 17世紀ヴェネチア

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思い出鑑定 17世紀ヴェネチア

 グイドという青年がいた部屋から、いつの間にか違う場所に移動している。  潮の香りのする街中は道の代わりに水路が通り、人を乗せた小舟が行き交っていた。 「ここは、ヴェニス<*ヴェネチアのこと>ですね?! 紅柄(べんがら)さん!」 「うーん、そうみたいですねえ……。僕、さっきの会話が全然分からなかったのですが……」  目の前に広がるヴェネチアの風景に感嘆をもらす佐久に比べ、耀(よう)の表情は浮かない。 「先ほどの会話はギリシア語でした! あの場にいたグイドという青年が、アーミラリ天球儀を作った技工士か天文学者の卵だったのか、もうひとつの世界を観る天球儀だという旨を」 「そうなのですね、そして舞台はヴェネチアに……。ここでも僕は役に立てそうにありません」 「実は私も、イタリア語は……」  二人で顔を見合わせて苦笑いを交わす。  先ほどの思い出を見ている最中も現在も、周りから二人の姿は見えていないようだ。 「さて、すぐ近くにアーミラリ天球儀があるはずなのですが……」  耀(よう)は辺りを見回してアーミラリ天球儀を探す。  物に宿る思い出の中に入っているのだから、そのものがある場所にいるはずだ。  すると、大きな鐘の音が辺りに響いた。  音の出所を探すと、壁に時計が付いた白い石造りの建物が視線の先にあり、建物のてっぺんにある鐘が正午を告げている。 「紅柄(べんがら)さん、あれ、サンマルコ時計塔ですよ!」 「サンマルコ時計塔?」 「15世紀末に作られた時計塔で、あの青い文字盤には黄道十二宮(こうどうじゅうにきゅう)が描かれているんです。文字盤はラピスラズリで出来ているという……」 「なんだか贅沢な時計塔なんですね……」 「黄道十二宮というのは現在の星座に対応するもので、あの時計塔がルネサンス建築です」 「はあ」 「アーミラリ天球儀を探しに行きましょう!」
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