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その晩、わたしは再び、梅の精霊の夢を見ました。
「少しずつあなたの人生が、幸せへ傾いていることが分かり、わたしも幸せです」
精霊は、真っ赤なフリルを重ねたドレスでくるくる回って、祝福してくれました。
「けれど、まだあなたに100%の幸せを施せた自信はないわ。あなたが幸せになるには、まず、あなたの大切な人たちが幸せになる必要があるもの。自分の幸せは、誰かから零れ落ちた幸せを、少しずつプレゼントしてもらうくらいが丁度いいの。あなたは内気で、ひとに与えた幸せがまだ、少なすぎるわ。幸せへの思いを詰めた梅の実は、好きなだけ、たくさんの人に渡してくださいな。そうすればいつか、あなたに幸せがたくさん巡ってくるはずよ」
目覚めると、わたしは枕を、涙でひたひたと濡らしておりました。そうか、わたしがずっと不幸だったのは、わたしが臆病すぎたせいね。わたしは怖いから、誰か守って。わたしを傷つけないで。わたしの価値観、好きなものは守って。わたしのために話しかけて。
「きっと、お姫様だったのね」
お姫様は、王様からの権力で守られ、メイドさんにはチヤホヤしてもらい、家来は従順に言うことを聞いてくれる、キラキラした儚い存在。けれど、実際のわたしはどこまでもただの人で、美しくも賢くもなく、道を歩けば出会える、価値のない人間です。花屋の、高級なお洒落な花々なんかじゃなく、どこにでも生えている雑草だったのです。
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