梅の実

2/3
前へ
/15ページ
次へ
「まあ、可愛らしい」  この梅の木は、父がお正月に貰ってきた苗を、直植えしたものです。すぐ枯れると思っていたのに、まさか実をつけるまで成長するだなんて。梅の実は、楕円形で、ビー玉くらいの大きさです。まるで赤ちゃんみたいです。 「自分が育てたものが成長する姿を見ることは、こんなに嬉しいものなのね」  先程両親にぶつけたひどい言葉。結婚か……。そりゃあ大事に育てた子どもに、孫くらい産んで欲しいよなぁ。  実践不可能なことは、頭から追い出して、いつも通り、市の図書館へ向かいます。人通りの少ない道、ふと襲う不安は空気に溶かし、雲の形を追って、図書館へ辿り着きました。奥にある、新書の棚に目を向けると、いつも通り、そこに無愛想なおじいさんが腰掛けていました。わたしは、本棚から、ミステリー小説を手にし、おじいさんの前に腰掛けました。いつも図書館に来ている、この偏屈そうなお客様。その真向かいに座るのが、わたしのお決まりです。 「こんにちは、今日もいい天気ね」  そんなわたしを、ギロリと睨みつけ、おじいさんはいつも通りグチグチ文句を言ってきます。 「なんだ、いつもわざわざ、わしの真ん前座りおって」 「いつも暇そうにしとるが、仕事しとらんねやろ、ろくでもない」  どうしてこの年代(わたしの父と同じ世代)の男性って、みんな似たような話し方をするのでしょう。父の話し方と似ているおじいさんを、わたしは気に入っておりました。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加