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「まあ、可愛らしい」
この梅の木は、父がお正月に貰ってきた苗を、直植えしたものです。すぐ枯れると思っていたのに、まさか実をつけるまで成長するだなんて。梅の実は、楕円形で、ビー玉くらいの大きさです。まるで赤ちゃんみたいです。
「自分が育てたものが成長する姿を見ることは、こんなに嬉しいものなのね」
先程両親にぶつけたひどい言葉。結婚か……。そりゃあ大事に育てた子どもに、孫くらい産んで欲しいよなぁ。
実践不可能なことは、頭から追い出して、いつも通り、市の図書館へ向かいます。人通りの少ない道、ふと襲う不安は空気に溶かし、雲の形を追って、図書館へ辿り着きました。奥にある、新書の棚に目を向けると、いつも通り、そこに無愛想なおじいさんが腰掛けていました。わたしは、本棚から、ミステリー小説を手にし、おじいさんの前に腰掛けました。いつも図書館に来ている、この偏屈そうなお客様。その真向かいに座るのが、わたしのお決まりです。
「こんにちは、今日もいい天気ね」
そんなわたしを、ギロリと睨みつけ、おじいさんはいつも通りグチグチ文句を言ってきます。
「なんだ、いつもわざわざ、わしの真ん前座りおって」
「いつも暇そうにしとるが、仕事しとらんねやろ、ろくでもない」
どうしてこの年代(わたしの父と同じ世代)の男性って、みんな似たような話し方をするのでしょう。父の話し方と似ているおじいさんを、わたしは気に入っておりました。
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