出会い

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出会い

 帰り道、気分が良かったので、知らない道を歩こうと思いました。狭い路地を抜け、通りをいくつも歩きます。こんな目的地もなくふらつくと、よく迷子になってしまいますが、たっぷり日が暮れるまで、もと来た道を探すのもまた、趣深いと思いませんか?  可愛らしい丸太のベンチが目に入り、ゆっくり腰掛けました。そこで本を開き、通行人をチラチラ見ていました。そんな時、わたしの正面で、背の高い男性が、足を止めました。180センチ近くある長身に、丸刈り頭、少しボーッとした顔立ちの、優しそうな人でした。 「読書が趣味なんですか?」 「そうよ。この本は、推理物の中でも、無駄に殺人は起きないし、短くてサラッと読めるからオススメよ」  わたしは男の人に、読んでいた小説を渡しました。 「面白そうだね!」  彼は格好つけて、かしこまった顔で本のページをめくるのですが、どう見ても本を読み慣れてない方の手付きだったもので、思わず笑ってしまいました。 「本が苦手なら、無理して読まなくても良いのよ」  男性は、みるみる間に真っ赤になって、モジモジしだしました。 「そうだ、あなたのこと気にいったから、また会いたいのだけれど、わたし、スマートフォンは嫌いなの。だから…………」  鞄からメモ帳を取り出して、ボールペンで待ち合わせ場所を記入しました。 「一週間後のお昼、今座っているベンチで待ち合わせはどうかしら?」  こんな曖昧な申し出に、彼は嫌がることなく、了承してくれました。
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