乾さん

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乾さん

「ハーイ」  お客様用の高い声で返事をする母が、印鑑を持って玄関へ向かいました。そして何やら来客に向かい、あれこれ話しています。母が来客とやり取りする間、ぼーっとしていると、母がわたしを呼びました。 「都、乾さんよ」    なぜ乾さんが、わざわざ自宅に?混乱して、胸がドギマギします。乾さんは、わたしが辞めた会社の同僚で、わたしは良く彼女に助けてもらいました。けれど、会社を辞めたのは既に二年前。今更訊ねてくるのは何故でしょう。  恐る恐る玄関へ向かうと、乾さんが笑顔で手を振ってくれました。 「こんにちは。お久しぶりね、都さん」  もごもごと、うまく返事もできないまま、わたしは彼女を自室へ案内しました。 「いっ、今から、あっ、お菓子、…‥座って待ってて欲しいです…」  急いで緑茶とどら焼きをお盆に置き、部屋まで運び入れました。緊張しすぎて、湯呑が地震みたいにガタガタ揺れています。  そんなわたしを一切気に留めず、乾さんがシャキシャキ話し始めました。 「わたし、都さんのお母さんに頼まれて、都さんに会いに来てん。懐かしいなあ、そんな緊張せんで、お話ししようや」  乾さんは呑気に、今の会社がどんな感じかをゆるい調子で、ペチャラクチャラと喋りだしました。 「高知先輩、気が強すぎて、新人さんみんな逃げてしまって、いまうちの会社人手不足やねん。だから都さん仕事ないんやったら、いつでも戻れるで」    というか、高知先輩の圧力に耐えきれず、わたしも会社を辞めたのだけれど。体育会系、根性、忍耐、上下関係を重んじる、わたしの嫌いなタイプです。
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