Episode1 跡を残して

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「で?そっちはさっきから、何楽しんでんの?」 「へっ?」  凄むイケメンに腰が引ける。(うらや)ましいほど睫毛(まつげ)が長い。 「見てたじゃん。人が手出されてるのに、ろくに助けてもくれないで」  やや暗めのサラサラとした金髪頭が、壁ドンの体勢で、不満げにシャッター際へ私を追いやってくる。 「よ、用事があっただけで」 「ふ〜〜ん」  間近に迫る彼の肩から、柔軟剤だろうか。ほんのり甘いオレンジのような香りがした。 「べ、別に。裏から出たら、あなたが勝手に殴られてただけで」 「それで?」  全身にゾワゾワとした何かが走る。 (近い近い) 「別に私は、何も悪いことはしてないわけで。そりゃあ、ちょっとは立ち聞きしちゃいましたけど」 「やっぱり聞いてるじゃねぇか」  引きで見ると、背丈(せたけ)はもっと低く見えたのに。  いざ目の前に立たれると、思っていたより彼の背が高かったようで、私の身体はすっぽり彼に(おお)われた。
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