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昼を過ぎた頃、何か異変を感じる。
そして、少し離れた場所から騒がし声が聞こえた。
「おーい、そっちにいったぞー!」
その声が聞こえたのと同時に前方20メールぐらいの位置に、30センチ程の茶色の丸い物体が見えた。
その茶色の物体は、真っ直ぐに僕達の方に向かっている。
速い!
僕が全力で走るよりも少し速い?!
「おい、ロックラットが来たぞ、構えろ!」
カインの指示により、剣士のように硬い木の棒を構える。ちょっと腰が引けている気がするけど、気のせいだろう。
僕達の方に向かって来ているのは、ネズミ型の魔物だった。その種類の魔物は体長が約60センチ。しかし、その半分は細長い尻尾なので、実質30センチ程だ。
丸い体で太っているように見えるが、モコモコの毛に覆われている。普段は大人しく、止まっていると石に見えるのが名前の由来のようだが、毛玉にしか見えないのは僕だけだろうか?
ロックラットは敵から逃げる時、動きが素早い。
向かって来たロックラットは、僕たちの攻撃をスルリとかわす。
森の中に居るロックラットは、普段こんなに素早く動かないので、いつもは僕でも簡単に攻撃が当たる。
何度か戦った事があるけど、この状態のロックラットと戦うのは初めて。
「おい、ゆきのふ。お前はロックラットを追い掛けろ!マシューとボルデガは俺と一緒に蔵を守れ!!」
僕はカインの指示に従ってロックラットを追い掛ける。
チョロチョロと村の中を駆け回るロックラットを追いかけていると、僕と同じタイミングでロックラットの方もバテた様子で動きが止まった。
今がチャンス!!
しかし、息が上がっているのは僕も一緒で、一歩前に進むのも困難な状態。
後からゆっくりと歩いて来たカインがロックラットに近付き、硬い木の棒を振り上げると、一気にロックラットの頭を目掛けて振り下ろした。
グチャッ
それを見て、僕は気分が悪くなる。
僕の手柄を横取りされたのが原因ではない。
潰された魔物の頭のせいだ。
この世界では当たり前の事でも、僕は慣れる事が出来なかった。
その後、村の中まで入って来た魔物は無く、蔵の前で割りとのんびりと過ごした。
夕方になると森に行っていた大人たちが退治した魔物を持って村に帰って来た。
退治した魔物は村の広場に集められると、大人たちによって解体されて皮や肉、そして牙や骨などに別けられていく。
肉は保存食として加工され、皮は毛皮として冬に敷物や服として使用するために、後日処理をするようだ。
骨は薪と一緒に燃やされる。焼いた骨は春になると畑の肥料として砕いて使うので、灰と一緒に大きな壺の中に入れられた。
牙は何に使うのか分からない。格好いい飾りにでも使うのだろうか?
今日は、いつもより遅い時間の夕食。
普段あまり食べる事のない肉が出て来て嬉しいのだが、この肉が魔物の肉だと思うと少し抵抗感がある。
ええ、美味しく頂きましたけど何か?
今日のように肉を食べる機会が増えたなら、母は健康な体を取り戻せるのだろうか?
もう少し僕も魔物退治に行く回数を増やした方が良いと思った。
でも、冬になったら魔物も冬眠するのか知らないが、森に行っても魔物をあまり見掛けなくなるので狩は難しい。春になったら頑張ろう。
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