はじまりの村

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はじまりの村

スタートボタンを押すと、一瞬の間が空いてからスマホ画面が真っ白になり、カメラのフラッシュを焚いたように眩しく光る。 夜寝る前の真っ暗な部屋で、スマホ画面の明るさを落としてゲームしている時に、CPUに負荷が掛かったのか突然画面が消えたあと、画面の明るさが最大かと感じる程に再起動した画面よりも眩しい。 俺が小学生の頃、クラスの集合写真を撮影した時のストロボを間近で見たら、こんな感じだろか?と思う程の眩しさだ。 カメラマンがストロボを何度も交換していたの見て、1回しか使えないなんて勿体無いと思っていたのは俺だけ?と思いながら俺は気を失っていた。 気が付くと俺はマンガやゲームに出てくるような『村』の中に立っていた。 ん?ここは、テレビドラマ?の勇者◯シヒコの世界か? そう思わされる風景が、そこにはあった。 『ゆきのふ』 俺の視界の端に何か文字が見えるが、何だろう? 別に気にしなくてもいいか。 僕は、ここで何をしていたんだっけ? 思い出そうとしても思い出せない。 僕?ん?僕は、僕だな。何で疑問に思ったのだろう?変な僕だな。 まさか、若年性の何か脳の病気とか? いやいや、そんな事は無い。ちょっと度忘れしただけ。誰もが良くある事だろう。 僕の名前は『ゆきのふ』で10歳の普通の男の子だ。 うん、間違いない。 そして、この村は『はじまりの村』だ。 よし!僕の記憶は問題無い。 そう言えば、僕は母から買い物を頼まれていて、野菜を買いに行く途中だったな。 『ななな』と言う名前の苦い葉っぱの野菜。 僕は好きじゃないけど、栄養価が高いから食べなくちゃいけないらしい。 どうせ買って食べるなら、今が旬の春の野菜が食べたい。 なぜ、一年中生えている『ななな』なのだ? 『バナナ』なら好きだけど、『ななな』はぶっちゃけ、食べたくないでござる。 「ねえ、ゆきのふくん。道の真ん中に立ち止まって、『ばなな』とか『おさる』とか、ブツブツ言ってると気持ち悪いよ」 僕に声を掛けて来たのは、幼馴染で同い年の女の子。名前は『ミアカ』で、おさげ髪が特徴の活発な女の子。 僕は、ワンピース姿の彼女が楽しそうに木登りをしている所を下から見上げるのが好きだ。 「こんにちは、ミアカちゃん。ミアカちゃんも買い物?」と、女の子も手提げ袋を持っているのに気付き挨拶をする。 「ううん、違うよ。フウナちゃんのうちに遊びに行くの」 ニコニコしながら言うミアカちゃんは可愛い。 フウナちゃんも僕と同い年の幼馴染で青い髪色の大人しい女の子。 ミアカちゃんとフウナちゃんの性格は真逆だけど2人は仲良し。 ちなみにミアカちゃんの髪の色は黄色。 2人とも可愛いくて僕も一緒に遊びたいけど、今は母に頼まれた買い物に行かないとダメだ。 残念だけどミアカちゃんに手を振って別れ、野菜を売ってくれる農家のオジサンの家に向かう。 何日か前にフウナちゃんの家に遊びに行って、一緒に『おままごと』をして遊んだのは楽しかったな。 僕がお父さん役で、フウナちゃんがお母さん役。そして10センチちょっとの小さな木の人形が僕達の子供役。 木の人形を子供役としたのは別にいいけど、あの人形は少しボロくなってゾンビみたいだと思った。それと、なんか少し臭いし。それを可愛い子供だと思い込むのは大変だった。 もっと大変だったのは、そのあと。遊んでいた木の人形がフウナちゃんのお姉さんの物だったようで、僕達が勝手に使って遊んでいたのを見付かり、人形を取り上げられると真っ赤な顔で怒られてしまった。 フウナちゃんが次の日に僕に謝ってきたけど、「僕は大丈夫だから」と問題無い事をアピール。 どうしてお姉さんが怒っていたのかフウナちゃんに聞いたら、「あの人形は、子供が触っちゃダメな物なんだって。良くわからないけど、お姉ちゃんも大人に成ったばかりで大変みたい」と言っていた。 この国は、12歳で成人となる。 フウナちゃんのお姉さんは12歳に成ったので、秋に行う成人式を終えたら村を出て、街に働きに行くらしい。今は準備などで大変な時期らしくピリピリしていたのかも知れない。
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