はじまりの村

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農家のオジサンの所で『ななな』を買い、家に帰った。 母に『ななな』の入った袋を渡すと視界の隅に『クエスト達成 5ポイント獲得』との文字が浮かぶ。 何これ?ああ、いつものアレか。目の錯覚か、見えているのは気のせいだな。見なかった事にしよう。 他の人には見えない文字。誰も見た事のない現象のようなので、僕にも見えてないと思い込む。 分からない事は、考えたって分からないのだから、無駄な事はしない。 「ねえ、ゆきのふ。買ってきてくれた『ななな』を茹でているから、洗濯物を取り込んできて」 「うん、分かった」と母に返事をして庭の方に向かう。すると、視界の隅に文字が現れた。 『クエスト 「洗濯物をたため」 が発生しました』 いやいや、「取り込んできて」とは言われたが、「たため」なんて言われていない。 でも、取り込んだら『たたむ』から別にどうでもいい。と言うか、この文字は無視しよう。 庭に干してあった洗濯物を触ると、しっかりと乾いていたので、カゴの中に入れて家の中に運ぶ。 服を1つたたむごとに、自分の物と母の物を別けて積み重ねていく。 母のパンツをたたむ時に少し緊張してしまう。僕って変なのだろうか? 洗濯する時に、ちゃんと手でもみ洗いして汚れが落ちているのを確認しているので、怒られる事は無いと思うのだけど、何故か緊張していた。 僕の母は、僕の幼馴染たちの母親よりも少し若い。そして村一番の美人だ。僕の自慢の母だ。 母との事を色々と思い出してみる。 月に何度か他の町から来た行商人のおっちゃんの所に母と買い物に行くと、おっちゃんは僕と母を見て、僕に「綺麗なお姉さんがいていいね」と毎回言う。何で毎回言うのか分からない。 おっちゃんは僕たちを覚えていないのだろうか? 母は僕のお姉さんだと言われて嬉しそうなので、機嫌の良い母を見ると僕も嬉しい。 僕の母の年齢は23歳。 12歳で父と結婚して、13歳で僕を産んでいる。 母の両親から結婚を反対されて、2人は駆け落ちして、この村に来たのだと最近聞いた。 当時、父の年齢が40歳を過ぎていて2人の年齢が離れ過ぎているのが結婚を反対された理由だとか。 僕は、おじいちゃんやおばあちゃんと一度も会っていないので、どんな人なのか知らない。両親の結婚を反対する人だから怖いイメージがあるので僕は会いたくない。 母は、おばあちゃんに会いたかったりするのかな? そんな父は、僕が幼い頃に隣町から買い物帰りに魔物に襲われて死んだと聞かされている。 村の外には人間を襲う魔物と呼ばれる生物がいる。 この村の周辺や隣町周辺に居る魔物は弱く、大人だったら簡単に退治出来る魔物しかいない。 それなのに、どうして父は魔物に殺されたのか分からない。 たまたま強い魔物が近くを村の通って、たまたま父がその場に居たのだろうか? いまだに理由が分からずにモヤモヤする。 僕の家は、僕と母の2人暮らし。 父の代わりに働いて稼いでいる母は、いままで働き過ぎなのか、最近は体が弱っていて家に居る事が多い。 母には、あまり無理をしないで元気になって欲しい。 洗濯物をたたみ終えると視界の隅に文字が現れる。 『クエスト達成 5ポイント獲得』 そうだ、母が毎日飲んでいる薬が残り少ないんだった。 いつものように、近所に住む薬師っぽい爺さんに薬を貰って来よう。 『クエスト 「いつもの避妊薬を渡せ」 が発生しました』 何か文字が出たような気がするけど、きっと気のせいだ。 うん、気のせい、気のせい。 爺さんから貰うのは体調が良くなる薬だ。風邪薬や栄養剤のような薬で間違いない。 僕は母に「薬を貰ってくる」と言って外に出た。
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