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近所に住む薬師のような事をしている爺さんの家のドアをコンコンと叩き、返事を聞かずにドアを開ける。
いつもの事なので、爺さんは何も気にしていない様子。
「爺さん、いつもの薬を貰いに来たよ」
乾燥した葉や木の実のような物を細かく砕いて混ぜ合わせていた爺さんは、俺の顔を見て「ああ、そうか」と言って、再び作業を続ける。
僕は爺さんの邪魔をしてはいけないと思い、そっとドアを閉めると玄関の中で大人しく待つ。
しばらくして爺さんは作業を終えたようで、作っていた薬を小分けにして小さな紙に包んでいた。
爺さんは、包んだ小袋を赤い袋に入れると僕に渡す。
「薬が出来たので、これをカンダナの家に届けてくれ。それと、ぼうずのところの薬は、こっちの袋だ」と言って黄色い袋も渡してきた。
黄色い袋は、いつも貰っている母の薬が入った袋だ。
そうか!カンダナさんの家に届ける方が、さっき見えたクエストのやつか。
2種類の袋を爺さんから受けとると、お礼を言ってからカンダナさんの家に向かう。
カンダナさんの家が見えてくると、家の前にはカンダナさんがソワソワしながら立っていた。
廊下に立たされた人がオシッコを我慢しているみたいだな。
カンダナさんは20代前半の男性だ。家の前に立たされる事なんて大人は無いはずだ。
「カンダナさん、こんにちは」と声を掛けるとカンダナさんは、ダッシュで俺の方に向かって来た。
カンダナさんの表情がいつもと違っていた。目が真っ赤に充血していてカッと見開いている。その目が怖い。
「その手にしているのは、爺さんが作った薬か!?そうだろ!?」
『さあ、早く渡せ!』と目で訴えているように思えたので、赤い方の袋をカンダナさんに渡した。
カンダナさんは、その袋をひったくるように僕から受けとると、怒鳴っているみたいな大声で「ありがとう」と言い、素早い動きで家の中に入って行った。
カンダナさん。我慢の限界で、もう待ちきれなかったのかな?
とりあえずクエスト達成か?
しかし、達成の文字は現れなかった。
ああ、たまに見える文字は、やっぱり気のせいだったようだ。
家に帰ると母は夕食の準備をしていた。
「ただいま。いつもの薬、貰ってきたよ」
エプロン姿の母に、薬の入った黄色い袋を渡す。
『クエスト達成 5ポイント獲得』
んっ?んー?んーんー。だいぶ遅れて出たな。
いや、僕は空中に浮かぶ文字なんて見えてない。見えてない。
少しして、いつもの夕食の時間になると、楽しい食事だ。
ななな入りのスープに、なななの煮物、黒くて硬いパン。
パンをスープに浸すとパンが柔らかくなって食べやすい?スープに入っているなななの苦味がパンに吸収されてしまうので、硬いままで食べた方がいいのか?
どっちもどっち?
とりあえず無心になって食べるしかない。慣れているので問題無い。
夕食後に母を休ませると、僕は使った食器や調理道具を洗う。
これも、いつもの事なので慣れている。
体が弱っている母には、早く元気に成って欲しい。
薬師のような爺さんが調合した薬で、早く元気になる事を願う。
『今日も1日ご苦労様でした』と、心の中で自分に言ってから自分のベッドで休んだ。
翌日の昼に「昨日カンダナさんちのトウカちゃん(3歳)が高熱を出していた」と、母から聞いて『あー、それでカンダナさんはアレだったのか』と納得した。
あの赤い袋に入っていたのは解熱剤だったのか。
それじゃ、母に渡した黄色い袋の中身は何?いや、なにも考えない方がいい。きっとそうだ。
僕はカンダナさんちのトウカちゃんの様子が気になって見舞いに行こうかと迷ったが、まだ病気が治ったのか分からないので今日は行かない事にする。
僕が病気に成ったら、体が弱っている母に移しちゃう可能性があるので、気を付けないとダメだな。
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