ブラ3はお好き? ~アンニュイな雨の休日の午後に~

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 音楽だけではない。男女間の関係にしても、裏に「計算」があるかなどと邪推して、いいことがあるのか? 何が楽しい? 自分の心へ素直になれば、それで十分だ。おそらくその先に、これまで得られなかった何かがある。  その後、復職した私は、再びT響でオケ活動を再開した。  職場の同僚の女性と交際を始めた。渚左(なぎさ)のときは、なし崩し的だったが、彼女の方から近づいてきた。今の彼女は、自分からデートへ誘ったら、あっさりと受け入れられた。そして、彼女と結婚した。  渚左(なぎさ)もおしゃべりだったが、妻は、それに輪をかけたおしゃべりだ。下町生まれの江戸っ子で、職場の幹部が相手でもタメ口をきく豪胆さも持っている。  Yオケにエキストラを頼まれた。メインはブラームスの交響曲第2番。大学時代に渚左(なぎさ)と一緒にやった曲だ。  演奏会が終わり、楽屋口から出ると妻が待っていた。私を見つけると、手を振って近づいてくる。 「立見(たつみ)さん?」  女性の声がして、一瞬血の気が引いた。声で分かった。渚左(なぎさ)だ。 「島林さん、じゃなくて、名前が変わったんだよね?」  一歩下がって控えている男性が目に入り、ピンときた。どうりで、「ゆうちん」と呼べないはずだ。 「これ、うちの旦那」 「どうも」 「どうも」  おざなりに紹介された彼は、ボソリと一言だけあいさつした。が、私もにた者どうしだ。  少しだけ嫉妬(しっと)の感情を覚える。が、なぜか()に落ちた。穏やかで優しそうな雰囲気が、どこか自分とにている。 「ねえ。誰? もしかして、元カノ? やだぁ。ゆうさんのスケコマシ!」と、妻が私の肩をど突きながら言う。怒ってはいない。冗談めいたニュアンスだ。 「え? まあ……そんな感じ?」と、答えかねていた私に代わり、渚左(なぎさ)が答えた。 「昔のゆうさんって、どんな感じだったの?」 「ゆうちんはさあ……」  私の不愉快そうな視線に気づくと、2人は、少し離れた場所へ移動した。コソコソと何かを話している。  残された夫2人の会話は、これだけだった。 「お互い苦労しますね」 「まあ……そうですね」  でも、いやな苦労じゃない。
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