第二章 さなぎ (5) きみの全部に恋してる

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第二章 さなぎ (5) きみの全部に恋してる

 その後、隣にその子を招いて、最近流行りのドラマ『きみの全部に恋してる』の話題を持ち掛ける。  すると、次第に調子を取り戻してきて、感想や推しポイントなどをかなり細かく話してくれた。  こうして一緒にバスケや雑談をして、少しは仲良くなれたかなと思って、ものは試しと尋ねてみる。 「ねえ、明日予定空いてる?」 「うん、空いてるよ。どしたん?」 「もしよければなんだけど、わたしの友達を紹介したいんだ。北平の生徒なんだけどね、音楽が好きで、今年から一緒に音楽活動をすることにしているの。テレビとかも好きな子だから、きっと話が合うと思うんだ。それでよかったら一緒に遊ぼうよ」  彼女は話を聞きながら、どこか不安そうにモジモジとしている。  でも、「遊ぼう」の言葉を聞いて少しほっとした表情をすると、最後には元気よく頷いてくれた。 「……わかった! 今日初めて会ったけど、いつも一人だったから少しだけきみと遊べて、うちも楽しかった。どうせ休みの日はヒマだから、きみがいるなら遊びに行ってみてもいいかなって思う。ヨロシクね!」  今日、学校で久々に新しい友達ができたのと、明日活動場所に人を呼べることになったという、二重の喜びを噛み締める。  ……あ、しまった、肝心なことを聞いていなかった。 「こちらこそ! そして、ゴメン。ずっと名前言うのを忘れてた。わたしは一年二組の、遠矢桜良っていいます。改めて、よろしく!」 「そういや、そうだったっけ。うっかりしてた。うちは一組の美樹。相星(あいぼし)美樹(みき)。よろしくね、桜良ちゃん!」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  今日は嬉しいことが沢山あった。  美樹ちゃんと、バスケを通じて仲良くなって、明日も会えることになった。  しかも、話はなんとそれだけでは終わらなかった。  別れ際に、美樹ちゃんが急に閃いたような顔をして、提案してくれたのだ。 「あのね、桜良ちゃん。確か、明日友達を紹介してくれるって言ったよね。よかったら、うちもクラスの友達を連れて来てもいいかな? その子って、うち以上に音楽とか好きだから、きっと話が合うと思うんだ」  もちろん快くOKすると、美樹ちゃんはあとで連絡するね、と言って嬉しそうに手を振りながら去っていった。  その夜、早百合にラインで報告する。 『明日、二人遊びに来るよ、楽しみだね』  しばらくして、「了解!」のスタンプと一緒に簡単なメッセージが来た。 『ありがとね、桜良。明日、私も楽しみにしてる』  ラインを閉じた後、だんだん心がうきうきしてくるのを感じ、思わず壁に向けて、楽しみだなぁ、と独りごちる。  すると、突然真後ろから、やわらかい声で返事が来た。 「よかったわね、桜良」  驚いて振り向くと、さっきまで誰もいなかったはずのところにナナ様がいて、のんきにくつろいでいた。  そういやここ最近会ってなかったなぁ、とそれとなく思ってはいたけど、とはいえ急に現れても困る。  だから思わず、「びっくりしたぁ! 何でいるの?」と若干抗議を込めて聞いた。  そしたら。 「だって、最近祠にも遊びに来てくれないし、つまらないじゃない。だから、こっそり遊びに来ちゃいました」  そう言って、悪戯っぽい笑みを浮かべながらウィンクを向ける。  その無邪気な仕草に、へなへなとその場に腰を下ろした。 「もう! ここに来るのは別にいいけど、いきなり話しかけてくるのはやめてよね。びっくりするから」 「はいはい、ごめんなさいね」  本当にちゃんとわかっているのかは知らないけど、機嫌が良いからこれ以上あれこれと言うのをやめて、代わりに近況報告をしてあげることにした。  練習場所のこと、紅葉ちゃんのこと、そして明日友達が二人遊びに来てくれること。  ナナ様はうんうんと興味深く耳を傾けて、しばらくしてからおもむろに口を開いた。 「色々と順調みたいでよかったわね。ところで、一つ気になることがあるのだけど」 「なあに?」 「その友達の、美樹ちゃんって子には、何て言って誘ったんだっけ?」  そう言われて、何となくその時のことを思い出してみる。 「確か、『一緒に遊ぼう』って誘ったよ。友達を紹介したいとも言ったかな」 「合唱に誘う、みたいなことは言ったのかしら」 「いやいや。だって、さすがに今日会ったばっかだし。もしそういうのに誘うんなら、まずは沢山喋って遊んで、もっとその子たちのことがわかってからやんなきゃ」 「でも、そうしたら……」  ここで、ナナ様はなぜか急に黙り込む。  どうしたのか少し気にはなったけど、同時に昼間のバスケの疲れからか強烈な眠気を感じてきて、そろそろ寝ようかな、と伝えた。  ナナ様は相変わらず何か言いたそうに考え込んでいたけれど、明日頑張って、とだけ告げてその場からいなくなった。
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